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複雑な生い立ちの幼なじみ

「こういうこと、いつもしてるの?」

「まあ、ぶっちゃけ金ないし、ここは楽勝なんで」

「このアルミホイルは、なんのために?」

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「ゲートが鳴らなくなるって、ネットの掲示板で見たから……」

 misono似の少女が、あっけらかんと、どこか勝ち誇ったように話す。どうやら彼女のほうがリーダー格のようで、モモコ似のほうの少女はただうなずいて同調している。所持金を聞けば、2人とも1000円程度しか持っておらず、商品を買い取ることはできない。身分を証明できるものもないというので、メモ用紙に人定事項を書いてもらうと、ともに16歳だという2人は、この店の近所におばあちゃんと2人で暮らしていると話した。

「おばあちゃん、迎えにきてくれるかな?」

「前に捕まったとき、これが最後って言っていたから、たぶん来てくれない」

「お父さん、お母さんは?」

「……いない。たぶん死んでる」

「あんたたち、乳首見えているわよ」という刑事の言葉に、店長は…

 連絡を受けて駆けつけた店長は被害品の多さにあきれ、未成年者であることを考慮しても許せないと警察を呼んだ。間もなく現場に臨場した少年課の刑事が被疑者2人の所持品検査を終えたところでmisono似の少女が言った。

「きょうは、夕方からバイトがあるんですけど、何時に帰れますか?」

「当たり前だけど、きょうのバイトは行けないね。あんたたち、保護観〔保護観察のこと〕中だよね? もしかしたら、しばらく帰れないかもしれないよ」

「マジかあ……」

©️iStock.com

 ようやく自分たちの立場を悟ったらしい2人は、テーブルの下で手を握り合ってうつむき、すすり泣き始めた。すると、その姿を見た刑事が2人に言った。

「あんたたち、乳首見えているわよ。背筋を伸ばしていなさい」

 その瞬間、店長の視線が彼女たちの胸元に走ったのを現認した私は、この人も捕まえたほうがいいと言いたい気持ちになった。

【前編を読む】「これ、どうぞ!」万引きした商品を捕まった母親に差し出す少女…“子連れ万引き”のやるせないリアル

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