万引き被害に悩む店舗は多い。「万引きGメン」という職業が生まれ、求められているのも、それを裏付ける大きな証拠といえるだろう。
ここでは万引きGメンとして総勢5000人以上の万引き犯を確保し、万引き対策専門家として活躍する伊東ゆう氏の著書『万引き 犯人像からみえる社会の陰』(青弓社)の一部を抜粋。小さな女の子を利用して万引きを繰り返すお母さんのエピソードを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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子連れ万引き
最近は、特定の系列店舗に狙いを定めた窃盗団による犯行が頻発していて、関係者は戦々恐々だ。いまや貧困を理由に万引き行為に至る者よりも、法の隙間を突いた計画的で粗暴な換金目的の犯行に及ぶ者が多く、その対応に限界を感じることも増えた。用いる手口や犯行態様は、悪質かつ複雑化していて、現行法では対応しきれないような事案まで発生している。なかでも、犯意を否定する目的で、罪に問われることがない年齢の子どもを利用する犯行は個人的に許せない。ここでは、幼いわが子を利用して犯行に及ぶ万引き女について話そう。
当日の現場は東京のベッドタウンに位置する生鮮食品スーパーLだった。ここは団地に囲まれた地域密着型の中規模スーパーで、あまり状況がよくない中学校などいくつかの学校が近隣にあることもあって、長年にわたって相当数の万引き常習者を抱えている状況にある。1日入れば、1人は挙がる。保安員の私たちから言わせれば、そんなイメージの現場だ。ところが、この日はあいにくの雨だった。来店者が少なく、特に変わったことがないまま後半の勤務に入ることになった。天候の悪い日は万引きする人が少ないのだ。
どこか異様に見える早足で歩く母子
夕方のピークを迎えて少しはにぎわい始めた店内を流すように歩いていると、30代前半とおぼしき女性が小さな女の子を引きずるようにして歩く姿が目に留まった。まだ3歳くらいだろうか。足元がおぼつかない女の子を連れているにもかかわらず、子どもがあたふたするくらいの早足で歩く彼女の姿がどこか異様に見えたのだ。彼女は生後半年に満たないくらいの赤ちゃんも背負っていて、激しい歩調に合わせて体を大きく上下させている。遠目から見ればもぐらたたきを彷彿させるほどの大きな動きで、背負われた赤ちゃんはとても居心地が悪そうに見えた。
[なにを、そんなに慌てているんだろう]