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2021/06/26

genre : 社会, 読書

外に出た女に駐輪場で声をかけると…

「開けにくいでしょ? ママが持っていてあげようか?」

「いや! じぶんで!」

「もう、早くしてよ」

 イラついた様子を見せる彼女を待たせ、時間をかけて包装フィルムを剝がした女の子がチュッパチャップスを口に含むと、出口に向かって歩き始めた。女の子の手を引く彼女のスピードは、前にも増して素早く、グズる子どもを無理に連れ帰る母親の姿にしか見えない。しきりと後方を振り返る彼女の視線をかいくぐり、証拠にするために女の子が途中で捨てた包装フィルムを拾い上げた私は、外に出た女が駐輪場に止めてある自転車に手をかけたところで声をかけた。

©️iStock.com

「店内保安です。お子さまが持たれているチュッパチャップスとか、お支払いしていただきたいのですが……」

「え? あれ? あ、この子、いつの間に……。申し訳ありません」

 包装フィルムを片手に声をかけると、ひどく動揺した様子の女は、すべてを子どものせいにしながらも事務所への同行に応じてくれた。事務所の応接室で向かい合って座ると、何日か風呂に入っていないのか、ホームレスの人たちと同種の臭いが漂ってくる。なにげなく頭髪を見れば、脂気が多く見える髪の毛はボサボサで、大量のフケが付着していた。

「あんた、またやっちゃったの?」

「すみません、おいくらですか?」

 どうやらチュッパチャップスの精算だけをすませてこの場を収めようとしているようだが、脇に置いたトートバッグの中身が気になる。ビニール袋を娘に渡すところのほかに、カゴにあった商品をバッグに隠すところも見たと、少し遠回しな言い方で伝えてみると、とたんに顔色を変えた女はトートバッグの口を押さえて否認した。これ以上の質問は取り調べ類似行為になりかねないので、ひととおりのことを女性店長に報告して判断を仰ぐ。

「あんな小さな子どもを使って万引きするなんてありえないわね。警察を呼びましょう」

 間もなく男女一組の警察官が到着すると、そのうちの女性警察官が女の顔を見るなり声をあげた。

「あ! Fさんじゃないのよ。あんた、またやっちゃったの?」

「いや、違うんです。子どもがアメを……」

 耳に入る2人の話を聞いていると、2人の子どもを抱える無職のシングルマザーだという女は、署内でも有名な常習者のようだ。犯歴照会の結果、前回の件で審判中であることも判明。女がかたくなに罪を逃れようとする理由はこれだったのだ。

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