「今日初出勤の女の子いるんすけど、鈴木さん取材に来ませんか?」
そんな連絡が僕のところに来たのは、東日本大震災前年の7月末のことだったと思う。誘いの主は、千葉県内は総武線沿線で活動するアンダー(未成年)専門の援デリ業者(売春の客付け業者)。すでにそこでキャストとして働いている16歳の少女が北関東の地元で小学生時代からつるんでいる友人少女を千葉に招き寄せ、新人として今日から所属することになるのだという。
彼女らの出会いは生まれ育ったエリアの児童相談所に併設する一時保護所。お互い家庭環境が非常に居づらいものだったことから、小学5年生ぐらいから地元でたびたび家出や深夜徘徊を繰り返し、保護を繰り返される中で顔見知りになったそう。援デリでは在籍キャストがそうした仲間を呼び寄せるのがよくあることで、当時僕はこうしたキャスト少女らや業者からの紹介で取材対象者を広げていくことが多かった。だが……。
「本強(挿入の強要)だった。騙された」
「初日は気が進まないなあ」……なんてことを思いながらも業者とキャスト少女らが待機に使っている喫茶店に赴くと、案の定そこにはめちゃくちゃまずい雰囲気が流れていた。
業者は黙って携帯で客のアポ取りをしているし、待機しているキャスト少女らも素知らぬ顔でメイクしたり携帯ゲーム機に没頭する中、ひとりの少女がふくれっ面でテーブルを睨みつけている。このグループで見かけたことがない少女だから、彼女がくだんの新人なのは間違いない。赤い目をみるに、少しばかり泣いたあとらしい。
「鈴木さん、その子ね。今日ちょっとあれなんで、よそで話聞いてやってもらえます?」
面倒くさそうな顔で言う業者に追い出されるように、少女と連れ立って喫茶店を出た。近くの公園、ベンチに座った少女は、小刻みに貧乏揺すりをしながらブツブツ言い始めた。
「本強(挿入の強要)だった。騙された」
「騙された??」
「最初、りい(彼女を呼び寄せた友人キャスト)と一緒にホテル行って、あたしはプチ(非本番=手や口によるサービス)だけでいいって言われて来たのに、ほかの子が遅刻したせいでりいがほかの客取らなきゃってなって、あたしひとりで行って来いって言われて、行ったらすごいキモい客だった。杉さん(業者)もプチで大丈夫って言ったのに、ホテル入ったら話違って、本番の約束でしょって。そんで本強だった。騙された」
援デリは「何をされてもおかしくない。いつ殺されてもおかしくない仕事」
援デリ業者では、業者側のスタッフがサイトやメールのやり取りを介して客とのアポイントや条件の折衝を代理し、少女を派遣する。なぜか「素人の少女」にこだわる客は、業者ではなくあくまで少女と折衝していると思っているので、実際に会った後に客との間に齟齬が起きても「それは業者が言ったことで、私の条件とは違う」なんて言えるはずがない。
けれど、少女の様子を見れば、こんな条件違いが今の精神状況の理由じゃないことぐらい、すぐわかった。
恐ろしかったのだ。
当たり前である。10代の少女が、ホテル内の密室という逃げ場のない環境で、全く初対面の男の前で裸になることが、どれほどの恐怖を伴うことか。