「何をされてもおかしくない。それこそいつ殺されてもおかしくない仕事」という言葉はセックスワーカー全体から聞く言葉ではあるが、まして援デリはあくまで違法ど真ん中の管理売春であり、風俗店に比べてキャストを守るシステムも確立されているとは言い難い。そんな中、まだ10代の少女にとって売春デビューに伴う不安や恐怖とは、それこそ男子中学生が総合格闘技の道場にノーアポで突っ込むよりも大きなものかもしれないのだ。
かといって、僕には少女にかける言葉がない。
彼女は友人の誘いでこうして家出してきているが、そもそも家庭環境的に絶対に戻りたくない事情を抱え、戻らぬ決心のもとで出てきている。業者のところをバックレたら、その瞬間から行く場所がない(夜は業者の用意した会員証を使って漫画喫茶に泊まる予定)。
「保護・補導」されて地元の児童相談所や親元に戻るぐらいなら、どんなことをしてでも逃げるというぐらいには、捨て身の覚悟を決めてもいる。
結局、僕が言えたのは(その恐怖に対して)「いくらなら許せる?」という、しょーもない妥協の提案だった。少女の答えは「10万円?」。その日、僕は少女を連れて業者の所に戻ると、僕が元々少女に払う予定だった取材謝礼を含めて10万円を少女のギャラとする交渉をし、8万円で折り合いをつけてもらった(この期に及んで値切られた)。
毎日のように売春で生計を立てる家出少女に取材を重ねる時期を経て、「だから初日の取材なんて気が進まないんだよ」と思うぐらいに、僕も現場の感覚に染まってしまっていた。
家出少女は数か月で別人になった
この業者に所属するキャスト少女らがドン・キホーテで買い物するのに付き合ったのは、その夏が終わった頃のこと。公園で「プチだって言うから行ったのに」と震える声でぼやいていたあの少女は、驚くほど別の人間になっていた。
身長がいきなり高くなったように感じるのは、超ハイヒールを履いているから。不自然に濃すぎたメイクはナチュラルに洗練されて、ハイブリーチとカラコンで、見事に年齢不詳だ。ヴィトン(コピー品)のトートバッグに不似合いなデカいディズニーキャラのマスコットぶら下げてぶんぶん振り回し、援デリのキャスト仲間と並んで、店内を闊歩する。
地元の中高生だろう、騒々しい少女グループが前方から来ても、絶対に通路を譲らない。むしろ相手が避けなければ当たって進路を譲らせる。どう見ても同年代の少女らに「っせーんだよガキ」とか低く毒づきながら、自分たちは「粗チン(粗末な性器の)客が~」だの「ガシマン(乱暴に女性器を扱う)の糞客死ね」とか一般人には下ネタであることも分からないような言葉を敢えてでかい声で交わし、笑い声を張り上げる。
衣類、靴、香水、ガスライター、時計、駄菓子、DVD、乾電池……カートのかごに思い思いの商品をぼんぼん投げ入れる際に、値札は見ない。鏡月(韓国焼酎)だけは僕に渡してきて、
「鈴木さんこれだけ会計してください」