強く異彩を放つ、10代の女の子2人組
［少し早いけど、休憩をとってしまおうか……］
現場の流れを変えるには気持ちを切り替えるのがいちばんいい。誰かに教わったことを思い出して休憩に入るべく弁当を選んでいると、10代半ばに見える女の子の2人組が店に入ってくるのが見えた。2人とも年齢にそぐわぬ派手なメイクで、胸元が大きく開いたシャツを着ておしゃれしているが、寝起き感が漂うボサボサの髪と足元の使い古したクロックスタイプの汚いサンダルがすべてを台なしにしている。どこを見ても、だらしない。そんな感じの2人の肩には、なにも入ってなさそうな大きめのナイロンバッグがかかっていて、幸せそうな家族連れのなかで強く異彩を放っていた。手にしていた弁当を戻して後を追うと、迷うことなく化粧品売り場に直行した2人は、売り場にいる店員を気にしながら化粧品やサプリメント、入浴剤、美容器具など多数の商品をナイロンバッグに隠していく。一瞬だけ垣間見えたバッグの内側には、銀色の紙（アルミホイル）が張り巡らされていて、防犯ゲート対策も万全のようだ。
商品を隠し終えた2人はエスカレーターに乗り込んで、映画館のほうに向かって歩を進めていく。最初は空に見えたナイロンバッグは、隠した商品でいびつな形に大きく膨らんでいて、2人が歩を進めるたびにアルミホイルのシャカシャカ音が聞こえてくる。
［映画館に逃げ込むつもりか？ 敷居をまたいだら、声をかけよう］
そう心に決めて追尾すると、2人は映画館入り口の手前にある休憩スペースに入って、上映中の『君の名は。』（監督：新海誠）の大きな立て看板の後ろに身を隠し、バッグに隠した商品を床に並べ始めた。間もなく商品のパッケージを開けたため、犯意が成立した。気づかれないよう後方から忍び寄って、そっと声をかける。
「こんにちは、店の保安員です。それ、お金払わないとダメだよ」
「保安員？」
「万引きGメンって言ったら、わかるかな？」
「え？ ウソ？ マジ？ ウチら、万引きGメンに捕まったの？ マジ、ウケるんだけどー」
犯行は素直に認めてくれたものの、反省した様子がない2人は、事務所に向かう途中、万引きGメンに捕まったと妙なテンションで盛り上がっていた。
「ウチも、万引きGメンやってみたいんですけど、どうやったらなれますか？」
「前科があったらなれないよ。君は、大丈夫かな？」
「そりゃ、だめだあ。キャハハハ……」
捕まったことを楽しんでいるかのような2人の振る舞いに困惑しながら事務所に入り、ナイロンバッグに隠した商品を出させると、どことなくmisonoに似ている少女のバッグからは25点（3万4100円相当）の商品が、どことなくハイヒールモモコに似た少女のバッグからは18点（2万8100円相当）の商品が出てきた。いちばん高額なのは美顔ローラー（3980円）で、2人とも同じ商品を盗んでいる。
