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「誰が作ったのか」という心理的な壁

「キャピックショップなかの」に入るとまず目にするのが、乾麺や洗濯洗剤が並ぶ棚だ。その近くにはコンロや焼き網が展示された「バーベキューコーナー」。さらに奥へ進んでいくと、革靴、財布、積み木、子供用跳び箱、碁盤、伝統工芸が施された湯飲み、文房具などありとあらゆる物が取りそろえられており、「一体ここは何屋さん?」と思わせるほどの品揃えがある。その数約1000品目に及ぶ。

 

 値札には「○○刑務所製」と製作地や原材料が記されているため、ふらっと立ち寄った人でも値札を見れば、出所が理解できる。これは矯正協会がキャピック(CAPIC)というブランド名で販売している商品で、売上の一部は、犯罪被害者支援団体の活動の支援に充てられている。

 

 一方、企業が直接、原材料や機械を提供して刑務所に発注し、市場に出回っている製品もある。刑務所は労働力を提供するだけで、「キャピックショップなかの」をはじめとする全国35カ所の販売所には売られていない。企業が独自に刑務所に発注し、納品して市場に卸すのだ。その数約2600社。中には著名な企業も含まれており、登山用品メーカー「モンベル」は網走刑務所と連携して日本手ぬぐいなどを生産している。だが、大半の企業は、その事実が知れ渡ってしまうとブランドイメージの低下や偏見を招く恐れがあるため、公表はされていない。

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 それは神輿とて同じである。担当事務官が語る。

「祭りは『御神事』でもあるので、そこで使われる神輿が受刑者によって作られたとなると祭りへの偏見につながる可能性があります。だから製作元は公表されていません」

 出来映えよりも、「誰が作ったのか」が重視される。そこには目に見えない心理的な壁が立ちはだかっているのだ。

 刑務所作業製品は一般的に、市場価格の半額程度と言われている。商品によってはそれほど変わらないものもあるが、作業にかかる人件費の節約は企業にとっても合理的で、それが発注につながる理由になっている。1ヶ月の作業報奨金の平均支給額は1人当たり約4260円(令和元年度)で、1日100円を少し上回る計算だ。

「網走刑務所」の印字が入った表札(380円、税込み価格)

「市販のものと同じ質感」と好評

「キャピックショップなかの」の来店者は年配が多いが、若者や外国人の姿もたまに見られる。徳島刑務所製の紳士靴(1足約6000円)を眺めていた若い男性がいたので、話し掛けてみると、こんな感想が返ってきた。

「市販のものと同じ質感が漂っていますよね。革の質感もテカテカしていて、サイズが合えば即買いのレベルです」

 

 ただし、出所が刑務所であることに対し、偏見が「ゼロではない」と素直な意見も述べた。

「どんな方が作っているかは正直、気になるところではあります。装飾などはブランド品と異なりますが、シンプルに作られていて実用的ですね。それよりも、刑期中の方が一生懸命に作っていると考えると、購入することで社会復帰に向けた応援にもなりますよね」