「受刑者の多くは、褒められた経験が少ない。子供の頃から家庭や生活面で問題を抱え、疎外感を覚えがちです。だから承認欲求も満たされていない。刑務作業とは、そうした人間に対し、仕事を通じて自分の存在意義を気付かせる意味があります」
刑務作業の意義についてそう語る法務省矯正局成人矯正課の担当事務官も、かつては刑務所の工場を管理する立場にいた。その現場を通して感じた受刑者像だ。
「ボールペンの組み立てで勤労意欲が芽生えるわけがない」
「懲役」という言葉がある。
監獄に拘置して所定の作業を科す刑罰のことを指す、自由刑の一種である。世界的にみても、米国や英国などの先進国で刑務作業は科されておらず、アジア域内で実施されているのは韓国と中国ぐらいと、実は珍しい。
その刑務作業を通じて、「自分は社会の役に立っている」という自己肯定感を芽生えさせるのが目的の1つである。
とはいえ一筋縄ではいかない。
法務省の犯罪白書によると、出所した受刑者の38.6%が5年以内に再入所しており、そのうち5割が2年以内に再入所している。担当事務官が内情を説明する。
「統計的には再犯者の7割が、逮捕時に無職でした。勤労意欲が低く、そもそも仕事をしていない人が多い傾向があります」
働くことに対する認識や価値観をあらためるのが「更生」の一つだとすれば、塀の中を経験した者からは、こんな現実的な声も聞こえてくる。
「刑務所でボールペンやシャーペンの組み立て、シャボン玉の泡を容器に詰める作業なんかをやらされたところで、勤労意欲が芽生えるわけがない。みんな嫌々仕事しているんだから。早く終わらねえかなあって。そんなもんですよ」
こう語るのは、都内に暮らす元受刑者の男性A氏(50代)だ。傷害罪に問われた裁判で2019年5月半ば、東京地裁から懲役10月を言い渡され、府中刑務所での服役を終えて昨年2月半ばに出所した。これまでにもA氏は詐欺罪などで何度も「ムショ入り」している常習犯である。
「特に短期刑の場合、経験者じゃない限り、木工や金属加工など技術を必要とする刑務作業に就くことはできない。だからボールペンの組み立てのような、部品を取り付けるだけの単純作業をずっと繰り返しているだけで、やってられない気持ちになります。それで作業報奨金は最初の見習い期間が1ヶ月700円。徐々に上がっていきますが、3年いても5000円には達しない」