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《直木賞候補作インタビュー》「今の社会にも“生贄”は存在する」アステカ神話と麻薬戦争、臓器密売ビジネスが交錯する佐藤究の「クライムノベル」

『テスカトリポカ』

note

犯罪と激しい暴力を描きながら、それらを解除する

 やがてバルミロと末永は臓器ビジネスの拡大を目指し日本へ向かう。川崎を拠点に活動を始めるが、自らの目的のためなら人殺しも厭わない。

 本作で重要な役割を担うもうひとりの人物が、メキシコ人の母と日本人の暴力団幹部の父を持つ土方(ひじかた)コシモだ。屈強な肉体を持つコシモは、ある事件で少年院へ送られるが、木工技術を評価され、施設を出ると工房で働き始める。だが、そこはバルミロらの犯罪の一端を担っており、コシモは知らず知らずのうちに巻き込まれていく。

「フェイクニュースや陰謀論がまかり通る昨今、フィクションに何ができるのだろう、とずっと考えていました。小説だからといってダークサイドの部分を執拗に描くだけでは、他の作品の二番煎じにしかならない。本作では、犯罪と激しい暴力を描きながら、それらを解除していくことを試みました」

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 コシモは自らの置かれた状況に気づいたとき、どんな行動を起こすのか。読後は強烈なカタルシスを味わうこと間違いなしの大作だ。

さとうきわむ 1977年福岡県生まれ。2016年『QJKJQ』で江戸川乱歩賞受賞。18年『Ank: a mirroring ape』で大藪春彦賞および吉川英治文学新人賞を受賞。

テスカトリポカ

佐藤 究

KADOKAWA

2021年2月19日 発売

《直木賞候補作インタビュー》「今の社会にも“生贄”は存在する」アステカ神話と麻薬戦争、臓器密売ビジネスが交錯する佐藤究の「クライムノベル」

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