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《直木賞候補作インタビュー》「歪でない家族なんているのだろうか」一穂ミチが突きつける6つの「家族」の物語

『スモールワールズ』

「家族を持とうと持たなかろうと、人間が社会的な動物である以上、完全に“家族”という枠組みから逃れることはできないと思います。愛と死を描いていない小説はない、という言葉を聞いたことがありますが、“家族”というテーマは、愛と死、その両方を含んでいるし、なんでもありのテーマだと思いました」

 長らくBL小説界で活躍し、多くの読者の支持を集めてきた一穂ミチさん。『スモールワールズ』は、「歪な家族」をテーマに、男性同士に限らず老若男女様々な人間模様を描いた短編集だ。

スモールワールズ』(一穂ミチ)

「『歪な家族』ってどんな家族だろうと考えているうちに、歪でない家族なんているのだろうか、と思うようになりました。どんな家にも、中にいる間は気づかないような無意識のルールや習慣があると思います。でも一歩外に出れば、それが他の家でも通用するとは限らない。どの家族にも多少の歪さはあると思いますし、人間は時として、その歪さを愛することもできるんです」

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 孤独を抱える主婦と家庭に恵まれない少年の交流を描いた「ネオンテトラ」、思春期の男子高校生のもとに、ある日突然姉が出戻ってくる「魔王の帰還」、ある殺人事件の被害者家族と加害者の交流が往復書簡体で綴られる「花うた」など、読み味の異なる六編を収録した本作。いずれの作品も登場人物たちのイメージが、読んでいくうちに変化していくのが印象的だ。

「人には様々な面があって、自分が知っているのはその一部にすぎない、という感覚があります。私は、会社の会議など人の集団に入ると、全員の顔を観察して、この人は笑っているけど本当は怒っているんだろうな、とか考えるのが好きなんです」

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