2018年、歴史小説『いのちがけ 加賀百万石の礎』で単行本デビューし、高い評価を受けた砂原浩太朗さんの二作目は、江戸時代の地方の藩を舞台に描く長編時代小説。主人公の庄左衛門は、50を手前にして、妻と息子を続けて亡くし、残された嫁の志穂と向き合うことになる。

砂原浩太朗さん

「嫁と舅という関係性に以前から関心があって。急に若い異性が家族として入ってくるって、どういう感じなんだろうと思っていました。聞いた話ですが、お嫁さんが来た途端、何十年も弾いてなかったピアノを舅が張り切って弾きだしたとか。川端康成の『山の音』でも、恋愛関係にはならないけど、抑えようもない何かがにじみ出てますよね。あとは、藤沢周平さんの『三屋清左衛門残日録』旧ドラマ版。仲代達矢さんが舅、南果歩さんがお嫁さんで、二人とも色っぽいんですよ。原作にそういうニュアンスはありませんが、図らずもキャスティング的に醸(かも)し出されたものが心に残っています。それで、そういう関係を作品の柱に据えようと思いました」

 2人をつなぐのは、庄左衛門が手慰みに描く絵だ。庄左衛門の姿を見て、志穂も絵を始める。絵画鑑賞が趣味である砂原さんの文体は、描写にも印象的な陰影が浮かぶ。

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「光と影のような濃密な対比には惹かれますね。小説では、抑制することでこそ伝わるものがあると信じているので、いつもあえて抑えた筆致で感情をにじみ出させたいと心がけています」

 家族を失い、寂寥感を漂わせつつも静かに続くかのようにみえた庄左衛門の日々。しかし思いがけず藩の政争にまきこまれ、物語は大きく動き出す。