売れるモン売って、稼げるだけ稼ぎたい
「いや、最初はお金を貰わなくてもいいと思ってたんですよ。でも今は、お金が必要になった。お金があれば大抵のことができるじゃないですか。『愛は買えない』とか言うけど、実際は買えるし。だから売れるモン売って、稼げるだけ稼ぎたい。『お金で幸せが買えるんだ』って気付いたから、その路線で頑張ろうかなって」
援助交際をしていた時期は反抗期だった。悪いコトをして親を「困らせてやろう」という側面もあったと言う。両親が離婚し、父親が病死。天涯孤独で世間知らずの少女は、少し大人になり、いつしかカネの魔力にも取り憑かれてしまっていた。
「アコちゃんの幸せって?」
その答えなどないことは分かっていたが、あえて質問した。アコは、「アハハ、何なんでしょうね。分かってたらこんな仕事してませんよ」と、そっけない。
「それって、お父さんとお母さんもいて、みたいな家族の生活では?」
「あー、確かに幸せかもしれない」
「幸せかどうかは分からないけど、憧れはある?」
「憧れますね、うん。満足できる家庭環境にいれば、自分に自信が持てると思うから。いい循環になると思う」
「それが幸せかどうかは別として、だよね」
「うん。少なくとも自分に自信が持てるような気がします」
アコから返ってきた自信に満ちた言葉
アコはこれまで、こうして自分の幸福観について真剣に向き合ったことなどなかったのだろう。話しているうちにその答えが朧げながら見えてきたのか、先ほどまでとは一転、明るく、そして饒舌になった。
「とにかくカラダを求められることが幸せ?」
「うん。少なくとも自分に自信が持てるようになった気がします」
「自分に自信がなかったってこと?」
「なかったですね。どうせ『若さだけだし』って。それしか思わなかった」
「自分の容姿のこと?」
「それもあるし、ババアになったらどうせ捨てられるんだよねって。18になったらアンダーじゃなくなるから、ポイって」
「お客さんに見向きもされなくなる恐怖があるんだね」
「ある。セフレにとってはアンダーという価値だけじゃないと思うから大丈夫かな」
支えがないと嘆いていたとは思えない、自信に満ちた言葉が返ってきた。アコに、社会のレールからはみ出してしまった者の特有の悲壮感は消えていた。
(#3に続く)