健康で、仕事もあって、家もあれば家族もいる。だけど、どうにも生きにくい。そんな風に感じている人はどれくらいいるだろう。2016年に『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』を世に出して以来、「生きづらさ」の正体と格闘し向き合い続けているのが、漫画家の永田カビさんだ。

『レズ風俗』の他にも、実体験をコミックエッセイにした永田さんの本の帯には、「抱きしめてもらえてますか?」「31歳、自分を見失い、アルコール性急性すい炎に」といった痛切な言葉が並ぶ。そして、最新刊の『迷走戦士・永田カビ』には、「ラブソングで歌われるような愛し愛されることってファンタジーだと思ってた。」という言葉とともに「一人で結婚式をあげました」とある。どういうことだろう。

「ウェディングドレスさえ着れば同じような幸せが手に入ると…」

「数年前に生まれてはじめて友人の結婚式に出席した時、ものすごく感動したんです。花嫁の友人も本当にきれいで……。それまで互いに愛し合うような関係はほとんどフィクションの世界の話だと思っていたのですが、その姿を見たことをきっかけに『現実に起こることなんだ!』と実感して、私もあんな風にドレスを着て笑いたいと思うようになりました。パートナーはいないけど、もう“一人結婚式”でいいからとにかくしたいと、自分一人でウェディングドレスを着て撮影してもらうことにしたんです。

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©永田カビ/双葉社

 なのに当日は撮影中からどんどん落ち込んでしまって、最後には悲しくて仕方なくなってしまって。これは撮影したあとに気づいたことですが、みんながお祝いしてくれる結婚式のあの空間こそが幸せだったんですよね。ウェディングドレスさえ着れば同じような幸せが手に入ると思っていましたが、それは違ったんだとわかりました」(永田さん・以下同)

「一人結婚式」や「レズ風俗」と聞くとエキセントリックな印象を持つかもしれないが、行動の根底にあるのは、「愛し愛される関係」を求める切実な思いだ。永田さんは著書の中で34年間交際経験は一度もなく、恋愛対象が男性か女性なのかもわからないと明かしている。

「ずっと、結婚しなくてもいいから、自分が望む仕事で成功したいとしか思ってこなかったんです。思春期も、高校は男子がほとんどいない美術系の学校だったこともあって、彼氏がいる人のほうが少数派で。私も友だちもみんな絵を描くこととか何か作ることに熱中していたから、恋愛に興味を持つことのないままきてしまいました」