野党の不安は「日本人も対象に含まれる」点
また、外国人や外国企業のみを法の対象にすればよいかとも思えるが、WTO(世界貿易機関)協定に反することを理由に、日本人を対象に含めていることなども特徴だ。
こうした国による一連の調査に関して、野党は、詳細な内容は明らかではないが、外国人に加え日本人の土地所有者の私権を制限することだけでなく、基地施設反対や原子力発電所反対などを唱える一般市民を検索して排除する危険性があるとし、異議を唱えていると受け取れる。
とりわけ沖縄を意識しているようで、アメリカ軍基地などが集結する沖縄では、土地の取引が大幅に制限されることは財産権の侵害にあたるし、基地反対などを唱える勢力に対してデモの阻止や、主催者の摘発などにつながるのではないかと懸念しているようだ。
国会での政府説明によれば、今回の法律が及ぶ範囲はあくまでも土地利用の観点からであり、無関係なものは対象外とする、としているが、これらは政令や閣議決定で定めるとしているため、その全容はあきらかではない。
変化を恐れずリスクに対処を
日本の不動産の私権が必要以上に強いがゆえに、対策が進まなかった事例に空き家問題がある。現在でも国内の空き家数は848万戸と日本の住宅総数の13.6%にも及んでいる。この背景にも、地域内に空き家が存在して、地域環境を悪化させていても、自治体などが空き家に立ち入ることはもちろん、所有者を特定して指導や勧告、撤去などの命令を行うことができなかったという事情がある。だが2015年に制定された空き家対策特別措置法によって、特定空き家に認定された空き家については、一定の私権制限を行うことができるようになった。放置することによって生じるリスクに事前に対応できるようにした画期的な法律であった。
今回の土地規制法も、あまりに自由を謳歌する日本の不動産所有に、国として一定の制約を課すことは、国土防衛上極めてまっとうな法律と考える。
日本人は変化することに弱い国民性を持つといえる。これまで良かったこと、認められてきたことに変化を加えようとすることに強い反発を示す。
「今までもそんなに多く、外国人が防衛施設周辺や原子力発電所周辺の土地を買った事例は少ない」。野党議員の方にこうした意見を主張する向きもあるが、買い占められて何か問題が起こった時には遅いのである。
あらゆるリスクファクターを想定したうえで、変化の先に起こることに対処する、それこそが国土を守ることだ。そして国土防衛のための対処法も時代とともに変わる。もっともそのルールを恣意的にではなく、国民に対して責任をもって運用していく健全な政府があっての話である。現在の政府も未来の政府も国を守る責任と気概を持って臨んでいただきたいものだ。
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