『人口減少時代の土地問題-「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ』(吉原祥子 著)

 日本は「適当な国」である。公文書はすぐに紛失するし、重要な政治決定が密室で決まることも珍しくない。その「適当」さは土地問題にも遺憾なく発揮されていた。そのことを、本書で知る。「所有者不明化」を中心に日本の土地問題を概観した一冊だ。

 いくらネット時代になっても、人は土地の上でしか暮らせない。その意味で、国家にとって土地は社会保障や安全保障という観点からも非常に重要なはずだ。しかし、日本はその土地管理がものすごく杜撰らしい。

 本書では、冒頭から次々と驚くべきデータが明かされる。国土交通省の推計によれば、日本の私有地の約二割の持ち主がわからないのだという。面積にして、なんと九州を上回る規模。そりゃ、空き家問題がこれだけ話題になるわけだ。しかも宅地だけではなく、農地や森林地でも同じことが起きているらしい。

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 なんで持ち主のわからない土地がこんなにあるのか。一番の原因は、土地の登記が古いままになっているから。権利者が死亡した時の相続登記は義務ではない。登記にはお金も手間暇もかかる。資産価値が高い都心部ならいざ知らず、地方では「面倒だから、相続登記をしない」というケースが多い。

 ある街では、県道建設の用地買収をしようと思ったら、三代にわたり相続登記がされていない土地が見つかった。担当者が地道に調べたところ、相続人は何と百五十人にも及んでいたという。土地買収をするためには、全員からの同意を得る必要がある。中には海外在住の人もいるだろうし、その手間は想像を絶する。

 実は、登記に頼らなくても、「土地の戸籍」ともいうべき地籍調査という制度がある。土地の区画ごとに所有者や面積などを調べ、確定していく事業だ。しかし調査は一九五一年に始まったにもかかわらず、まだ国土の半分ほどしか進んでいない。計算上は完了まであと百二十年を要するという。こりゃ、無理なやつだ。人員や費用がかかる上、地籍調査がなくても、個人間の土地売買には何の問題もないため、事業は遅々たる歩みでしか進んで来なかった。

 そうなのだ。所有者不明の土地が増えているのは「何の問題もないから」。もちろん再開発や災害時には土地の所有者がはっきりしていたほうがいいし、空き家問題も全国で起こっている。だけど、制度の抜本的な改革をするより、場当たり的な対応を繰り返すほうが現実的なのだろう。

 高齢者の大量死を迎える近未来の日本。所有者不明の土地がますます増えていくのは必至だ。だけどこの「適当な国」で、土地問題は当面の間、解決しそうにない。

 まさに日本の足元を見直す一冊。相続が身近な問題だろう読者が手に取れば、僕なんかよりよっぽど真剣に熟読してしまうはずだ。