ジャーナリストで評論家の立花隆さんが、4月30日、80歳で亡くなりました。立花さんは東京大学などで教鞭を執り、多くのお教え子を各界に送り出す“先生”でもありました。『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』等の著作で知られる、サイエンスジャーナリストの緑慎也さんも、教え子の一人です。

 1996年に立花さんの講義を受講して以来、在学中はゼミ生として、その後は個人スタッフとして、“書生的な関係”で立花さんと接し続けてきた緑さんが振り返る、「知の巨人」の“意外な素顔”とは――。緑さんによる追悼原稿を掲載します。

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「ハムカツが80円だって」

 麹町の旧日テレの近くにあるカレー屋に行った時のこと、立花さんがメニューを見て、不機嫌な表情を浮かべた。注文を取りに来た店員に「なんでこんなに高いの?」と食ってかかった。

 紀尾井町の文藝春秋からも近く、筆者はその店に行くのは初めてだったが、立花さんは以前、何度か足を運んだらしかった。

立花隆さん ©文藝春秋

「昔はもっと安かったよ」と立花さんに言われても、そこで働きはじめて日が浅い様子の店員は困惑するばかり。いくら値上がりしたと言っても、そんなに怒らなくてもいいはずだ。とりあえず注文して、店員が引っ込んだ後も「こんな高級な店じゃなかった」となかなか立花さんの怒りは収まらない。以前の安いカレー屋の思い出を返してくれという気持ちだったのかもしれない。

 1本1万円もするような高いワインを出す店に対しても厳しかった。店員を呼び、ワインの銘柄を次々と挙げて、これは知らないのか、あれも知らないのかと挑発し、店員のワインの知識を試すのだ。正直言って、たちの悪い客である。しかも、多くの場合、そういう店には出版社の接待で行く。喜んでもらおうと連れてきた編集者の面目も丸つぶれである。立花さんの個人スタッフとして同席していた筆者から見ても、店員や編集者が気の毒だった。

 一方、立花さんは大衆居酒屋のような安い店に行くと嬉しそうで「ハムカツが80円だって」などとニコニコしていた。