1ページ目から読む
3/3ページ目
「いろいろ試して、行き着いたんです」
安いものへのこだわりは食にかかわるものだけではない。晩年愛用していたのはぺんてるのタフという200円くらいのシャーペンだった。芯のサイズは0.9mm径で、濃さは2B以上。何本も同じものを購入し、いつでも使えるように仕事場のあちこちに常備していた。
机のペン立てにはモンブランの高級そうな万年筆もいくつも並んでいた。聞けば、高いものは10万円もしたという。「使わないのはもったいないじゃないですか」と聞いたが、「いろいろ試して、このシャーペンに行き着いた」と意に介さなかった。
好んで使った椅子は、パイプ椅子だ。筆者が大阪の司馬遼太郎記念館に飾られていたふかふかのクッションの付いた読書用の椅子に憧れたという話をして、「立花さんは座れれば何でもいいですもんね」と言ったら、ムッとして「いろいろ試して、この椅子に行き着いたんです。ふかふかの椅子は眠くなる。座面が硬いと、仮眠してもすぐ起きれるんだよ」とパイプ椅子の利点を力説した。
まず自分で食べて、使って評価する。求める機能や質が満たされるなら、値段や評判の高低は二の次。信じるのは自分の評価軸だけ。時の権力や科学研究の最前線に挑んだ根っこには、この姿勢があったと思う。