藤井聡太二冠の成長をはかるのに豊島将之竜王の存在は欠かせない。

 文春将棋ムック『読む将棋2021』で筆者は、「棋士を『研究者』『芸術家』『勝負師』の3タイプに分類してみると」というコラムを書いたが、お読みいただいただろうか。

 そこで豊島竜王を「研究者」の代表にあげた。

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「研究者」は相手の得手不得手にかかわらず自らの研究を信じて最善を追求するため、相手の実力を存分に引き出す傾向にある。

豊島将之竜王 写真提供:日本将棋連盟

 これまでの対戦で豊島竜王は自身の研究を信じて最強の策をぶつけ、藤井二冠もそれに応え全力を尽くしてきた。

 だからその時々の互いの実力差がハッキリと現れる。

 そのため二人のこれまでの対戦を紐解いていくことで、藤井二冠の成長曲線を描き出すことができる。

「研究者」に完敗した2017年

 順を追ってみていこう。

 公の場での初対戦は今から約4年前、2017年5月に行われた将棋まつり(五万石藤まつり)での非公式戦だった。

 藤井四段(当時)が先手番で当時得意としていた角換わりをぶつけ、豊島八段(当時)は早繰り銀と呼ばれる急戦策で対抗した。この早繰り銀への対応策が整っていなかった藤井四段はすぐに形勢を損ねてあっさりと土俵を割った。

 この頃、藤井四段はデビューからの連勝記録を伸ばしている最中であり、公式戦と非公式戦の区別をせずに「連勝が止まった」というニュースが流れたのも記憶に新しい。

 それから約4ヶ月後、二人は公式戦で初めての対戦を迎える。

 藤井二冠がA級棋士と公式戦で初対戦ということで話題になったこの対局は、昼食休憩前に千日手で引き分けになり、将棋を扱い慣れないメディアを混乱に導いた。ただ、この結果は先手番の藤井四段にとって作戦失敗といえる。そして指し直し局では中盤から藤井四段の指し手が冴えず完敗した。

わずか2年で四段から七段に

 しかし、2019年5月に行われた対局では、藤井二冠がいよいよ豊島竜王の牙城に迫り始める。この対局では藤井七段(当時)が敗れたものの、豊島名人(当時)相手にリードを奪う瞬間もあり、これまでよりも明らかに内容が上がっていた。

 そして肩書きにも注目いただきたい。

 2017年はデビューして間もない「藤井四段」と、タイトルに届きそうで届かなかった「豊島八段」だった。それがわずか2年で「藤井七段」と「豊島名人」になっているのだ。積み重ねた実績がそこに現れている。