竜王に僅差もわずかに足りず
それから2ヶ月後の対局は、第32期竜王戦決勝トーナメントでベスト4をかけた一戦。二人が初めて戦う大一番だった。
この対局は火の出るような競り合いとなった。
先手番の藤井七段が現代的な指しまわしでわずかにリードを奪い、豊島名人も玉を固めて決め手を与えない。形勢の針がどちらにも大きく振れない中、藤井七段の一瞬のスキをついて豊島名人が一気に藤井玉を仕留めた。
この一番は大きな意味をもった。藤井七段に勝った豊島名人は、勢いそのまま竜王を獲得して、史上4人目の「竜王名人同時獲得」を達成したのだ。
それから約3ヶ月後の対戦で、藤井七段は長く続いた競り合いから抜け出して公式戦初勝利寸前まで迫ったが、チャンスをつかみきれなかった。
2017年は序中盤で差をつけて豊島竜王が勝っていたが、2019年に行われた3局では終盤まで互角が続いた。藤井二冠としては、最後の詰めの部分がわずかに足りなかった。
豊島竜王に藤井二冠が追い付いた瞬間
先ほども書いたように豊島竜王はこの2年でタイトルを次々に獲得し、棋士として飛躍の時を迎えていた。実績もだが、実力も伸ばした時期であろう。
その豊島竜王に肉薄する藤井二冠も大きく実力を向上させたことがうかがえる。
そして約1年の間隔が空き、2020年の9月と10月、そして2021年1月と立て続けに対戦した。
藤井二冠は2020年の夏に王位と棋聖を獲得しており、豊島竜王は9月と10月の対局の間に叡王を獲得している。今に続く、二人の充実期である。
このあたりから二人の対戦が序盤戦術の最先端としても注目を集めるようになった。
常に時代の最先端を走る「研究者」豊島竜王に藤井二冠も完全に追いついたのだ。
藤井二冠は記憶に残る逆転劇を起こすような「勝負師」の顔も、プロも唸るような詰将棋を作る「芸術家」の顔も持つ。そして豊島竜王と対等の序盤戦術をみせる「研究者」の顔も併せ持つようになった。どれが本当の藤井聡太なのか、筆者にはわからない。
2020年の2局はどちらも二転三転の末に豊島竜王が勝利したが、2021年1月の対戦では藤井二冠が待望の公式戦初勝利をあげた。