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 1月の対局は、豊島竜王が角換わりに進め、後手の藤井二冠が早繰り銀で急戦を仕掛けた。

 豊島竜王はこの対策に準備不足だったようで、研究を深めていれば有望な変化だったにもかかわらずリードを築けず、逆に劣勢に立たされる。

 しかし一筋縄では終わらない。リードしていた藤井二冠にミスが出て、一瞬だけ豊島竜王にチャンスが訪れるが、それを逃して藤井二冠の勝利に終わった。

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 最後の詰めの部分でも藤井二冠が豊島竜王に初めて勝ったことで、二人の実力差は完全になくなったといえる。藤井二冠が豊島竜王に追いついた瞬間だった。

写真提供:日本将棋連盟

七番勝負の注目は豊島竜王の“秘策”

 さて6月29日に開幕するお~いお茶杯王位戦七番勝負はどうなるか?

 まず気になるのは作戦面だ。思い起こせば2017年に非公式戦で初めて対戦した際、角換わり早繰り銀で藤井二冠は経験不足で完敗した。それが2021年にはまったく同じ作戦で豊島竜王と互角以上にわたりあった。

 策を練るなら豊島竜王だろう。昨年の第33期竜王戦七番勝負を思い起こすと、羽生九段の矢倉模様に対していきなり桂を跳ねる意表を突く急戦策を採用した。豊島竜王は大舞台で大胆な策をとることがある。

 第1局をみれば、今シリーズにおける豊島竜王の戦略がみえてくるに違いない。

 筆者は2年前の記事で、豊島竜王の言葉として「藤井七段の全盛期に戦うことを目標にしている」と書いた。全盛期に近づく藤井二冠と対戦するこの七番勝負は豊島竜王にとって待ち望んだシリーズといえるだけに、余念なき準備で綿密な戦略を立てて臨むことだろう。

 豊島竜王は藤井二冠について今年5月に、「年々、全体的な精度が上がり、どんどん強くなられている印象がある」と語っていた。

 成長曲線を肌身で感じてきた豊島竜王の言葉は重い。実際、藤井二冠の成長曲線がさらに上向きなのはヒューリック杯棋聖戦五番勝負での戦いぶりを見れば誰の目にも明らかだ。

 その成長曲線の現在地がこの七番勝負でくっきりと見えてくる。

王位戦挑戦者決定戦では、羽生善治九段(左)を破って藤井聡太王位への挑戦権を獲得した豊島将之竜王 写真提供:日本将棋連盟

 筆者はこの数戦のようにどちらが勝つかわからない終盤戦が繰り広げられ、シリーズ全体も競ったものになると予想する。しかし、もし藤井二冠がシリーズを圧倒するようであれば、トップ争いの勢力図が塗り替えられることになり、また違ったステージに突入する分岐点になるかもしれない。

 歴史に残るであろう七番勝負、じっくり楽しみたい。

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 遠山雄亮六段のコラムは、文春将棋ムック『読む将棋2021』にも掲載されています。

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