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ハイキング、料理教室、写経…婚活イベントに参加し続けた男性(57)が痛感した交際相手を見つける“ハードルの高さ”

『57歳で婚活したらすごかった』より #2

2021/07/01
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効果抜群のプレゼント作戦

「皆さーん! お疲れのかたも多いので、コースを変更して短くします。沢には降りずにこのまま駅へ戻りまーす!」

 スタッフの女性が叫んだ。沢を横目に見ながら、奥多摩駅方面へ歩く。満を持して、僕は自分のまわりの参加者にお菓子を分ける。男性にも勧めた。人間性のアピールだ。

「嬉しーい!」

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 歓声が上がる。

「後ろにまわしてください」

 そう言って飴も配る。われながら、あざとい。

 自分で思っていたよりも、甘いものは効果が大きかった。多くの参加者が元気になり、会話のトーンが上がった。

 3時間ほどのハイキングは終わり、奥多摩駅前でスタッフが解散の挨拶をした。

「あとはおたがい誘い合って、二次会をなさってください」

 なんと無責任なのだろう。ここは山間部だ。二次会を行う居酒屋など見当たらない。山に囲まれたところなので、太陽が早く沈む。気温が急激に下がってきた。

 誘うべきか、誘われるべきか。男女とも駅前広場にぐずぐずと残っている。

 この婚活ハイキングで、何人かの女性と連絡先を交換したけれど、あせって会話をしておきたい女性はいなかった。

 電車の本数は少ない。素早く改札を抜け、発車時間が近づく青梅線に乗った。

 やれやれ。がらがらの車両のシートに一人身を沈める。

 すると、見覚えのある女性が同じ車両に駆け込んできた。婚活ハイキングの参加者だ。名前は憶えていないが、目が合い、挨拶を交わす。

「お疲れ様です」

 声をかけると、隣に座ってくれた。登山派でもおしゃれ派でもない。ジーンズに白シャツでスニーカーを履いている。

「ビスケット、ごちそうさまでした。おかげで生き返りました」

 彼女の言葉でお菓子の成果がリアルに確認できて満足した。

 39歳の彼女はメーカー勤務。帰路の立川駅で下車して、彼女とチェーン系の鶏料理の店に入った。夕食のピークの時間帯でどの店も混んでいた。限られた選択肢から選んだ店だ。

 彼女からは過去の恋愛の話を聞いたけれども、それっきり会っていない。結婚寸前まで行ったけれども思いとどまったという、いささか重い話を身の上相談のように聞いてしまい、恋愛の感情は生じなかった。彼女も僕を交際相手の候補とは考えていなかった。単に誰かに自分の話を吐露したいタイミングで会ったのが僕だったのだろう。

婚活料理教室に参加

 婚活料理教室は、キッチンスタジオで男女がペアで料理を作ることで、親しくなることを狙った婚活企画だ。

©iStock.com

 料理をすることについて、僕にはまったく抵抗がない。包丁も上手に扱える。

 婚活料理教室の会場はマンションの一室。週末に開催される、男女各4人、計8人での会だ。いいことなのか、よくないことなのか、年齢制限のない企画だった。つまり、僕のような中高年もいれば、20代前半らしき、いたいけな感じの女子もいる。いたいけ女子は、自分の親の世代になる僕にあからさまに不満の視線を向けた。

「ごめんね」

 心の中では謝ったけれど、僕の責任ではない。

 メニューは4品。チキンとトマトのストロガノフ、カボチャと豆腐のポタージュ、海鮮サラダ、デザートのココアケーキ。あみだくじで男女4組になり、各1品ずつを作り、全員で食事をして、最後に一対一の会話を4回行う。トータルで3時間。長い。