昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/07/01

家庭科の授業以来の共同作業

 婚活料理教室の利点は、長時間ゆえ人柄がわかること、料理のスキルがわかること、共同作業によって親密度が深まること。残念な点は、男女おたがい4人しか出会えないので、婚活ベースで考えるともの足りない。3時間を費やし、5000円ほどの参加費を払い4人しか会話を交わせないのは、コストパフォーマンスがいいとはいえない。

 あみだくじで、僕は37歳の会社員女性とストロガノフを作ることになった。料理の難易度は低い。主催者が完璧なレシピを用意してくれて、ていねいに指導してくれる。よほどのことがない限り、失敗はしないだろう。

 女性と一緒に料理を作るのは、小学校6年生のときの家庭科の授業以来だ。タマネギ、ニンジン、トマト、マッシュルーム……。二人で分担して切っていく。思いのほか楽しい。いつも僕は相手の年齢にかかわらず敬語に徹しているけれど、どんどん作業を進めなくてはならないので、おたがいいつのまにか友だちと話す雰囲気になっていた。ストロガノフが完成したときには、二人でささやかな達成感が共有できた。

 8人全員での食事も会話ははずんだ。4組それぞれ達成感を味わい高揚を抑えられない。別のペアが作った料理を称え、おいしくできたコツを教え合った。

 ただし、婚活的には何も生まれなかった。連絡先を交換したものの、連れ立って帰る男女は見かけなかった。僕自身、料理を作ったことばかり印象に残っていて、女性一人一人の顔もおぼろげだ。

写経と座禅で寺社婚活

 翌週末の朝10時前、僕は広尾の商店街を歩いていた。寺社婚活の会場となるお寺を目指していたのだ。お寺に着くと、すでに受付の列ができていた。本人確認のため運転免許証を見せて、参加費5000円を支払うと、畳敷きの講堂に案内された。正座を覚悟していたが、尻をついて膝を曲げる、いわゆる体育座りが許された。

 参加者を数えたら、男女各14人で計28人。お寺なのに、アロハのような派手なシャツの男もいた。白いワンピースで、髪に場違いな赤い花飾りを載せている女性もいた。週末の午前のお寺にこんなにたくさん集まるとは、ちょっと意外だった。

 やがて肌が女性のように白くすべすべの僧侶が現れて、法話が始まった。内容は婚活とはまったく関係ない。自分自身が僧侶になったいきさつだ。特にドラマティックでもなく、就職の流れのようなエピソードが、低いテンションで語られていく。

 法話は20分、30分と続き、退屈に耐えきれないのか、僕の後ろの男性参加者が、はあはあとため息をつき始めた。右横の男性は舟をこいでいる。

 盛り上がりのないまま話は終わり、部屋を移して仏教の経典を書き写す写経の時間になった。般若心経が薄く印刷された紙が参加者全員に配られ、筆ペンで10分間、ひたすら文字をなぞっていく。その間、もちろん全員無言だ。

z