警視庁捜査一課の幹部だった大峯泰廣氏。ロス疑惑、宮﨑勤連続幼女誘拐殺人事件、オウム真理教地下鉄サリン事件など、数多くの大事件の捜査に携わったことから、大嶺氏は“伝説の刑事”、“落としの天才”として周囲の信頼を得ていた。
そして7月1日、フジテレビ「アンビリバボー」で、大峯氏が1996年に捜査を担当した証券マン殺人・死体遺棄事件が特集される。事件の驚くべき展開について、犯人との壮絶な闘いのドラマを紹介した『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(赤石晋一郎)より、一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目。後編を読む)
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切断された指
「指だっ! 指が出てきたっ。第一関節から切断されている。マル害のものだろう!」
神奈川県葉山町の小高い丘の上に建つ豪邸に怒声が響き渡った。捜査員が郵送されてきた封筒を改めたところ、中に切断された指が入っていたのだ。
「ヒャッ」
小田嶋透の妻、洋子(仮名)の顔面は蒼白だ。
豪邸の中で待機していた警視庁捜査一課特殊班が慌ただしく動き出した。
「鑑識に回せ! 小田嶋のものか確認だ!」
封筒の中には脅迫文が入っていた。
〈オクサン バカナコトシタ ヤクソクマモレバ ナニモシナイトイッタノニ (中略)スグニ サツ テヲヒカセロ (中略) ダンナノ命モナクナル サツ イエニイタリ マワリウロウロシテイタリ スルカギリ キョウカライチニチオキニ ユビキル〉
不可解な誘拐事件
1996(平成8)年11月4日、渋谷署に1通の被害届が出された。
小田嶋透という男が誘拐され、身代金5000万円が要求された。すでに6通の脅迫状が届けられていた。渋谷署から連絡を受けた警視庁捜査一課は、特殊班を出動させる。特殊班とは、身代金目的の誘拐やハイジャックなどへの対処を専門的に行うチームである。正式名称は捜査一課特殊班捜査係という。
葉山にある小田嶋邸は、相模湾や富士山を一望できる高台にある豪邸だ。小田嶋は自称デザイナーとして豪華な屋敷を構え、ポルシェやアルファロメオなど高級外車を何台も所有するような豪勢な生活を送っていた。
しかしこの誘拐事件、身代金目的とするには不可解な経緯があった。小田嶋はある事件の重要な容疑者だったからだ。