昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「サザンやB'zの作詞作曲をしている」「ジャンポール・ゴルチエの代理人だった」  ウソで固めた“四億円強奪”殺人鬼が“完落ち”した瞬間

『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』より#2

2021/06/30

source : ノンフィクション出版

genre : 社会, 読書

 警視庁捜査一課の幹部だった大峯泰廣氏。ロス疑惑、宮﨑勤連続幼女誘拐殺人事件、オウム真理教地下鉄サリン事件など、数多くの大事件の捜査に携わったことから、大嶺氏は“伝説の刑事”、“落としの天才”として周囲の信頼を得ていた。

 そして7月1日、フジテレビ「アンビリバボー」で、大峯氏が1996年に捜査を担当した証券マン殺人・死体遺棄事件が特集される。事件の驚くべき展開について、犯人との壮絶な闘いのドラマを紹介した『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(赤石晋一郎)より、一部を抜粋して紹介する。

(全2回の2回目。前編を読む)

©️iStock.com

◆◆◆

“落としの大峯”

 そこで再び大峯は寺尾一課長から呼び出しを受けた。

「大峯、お前が小田嶋を調べろ」

 寺尾は「頼むぞ」と言うと、大峯の肩をポンと叩いた。やはり来たかと大峯は思った。「相手にとって不足はないだろう」と呟いた。

 オウム真理教の土谷を落としてから、寺尾と大峯の信頼関係はますます深くなった。数々の大事件の捜査を率いてきた寺尾は、警視庁内では“大課長”と呼ばれる存在である。自身の配下には他部署から引き抜いた精鋭を揃えており、その中でも最も信頼を置いている捜査員が大峯であることは、警視庁内では衆目の一致するところだった。

 だが“落としの大峯”とあだ名されるようになっても、取調べが毎回真剣勝負であることには変わりがない。必ず落とせるとは限らないのである。しかも小田嶋は、狂言誘拐まで行った狡猾な男だ。

大峯泰廣氏 ©文藝春秋/末永裕樹

 大峯は取調室に入った。じろりと容疑者を見る。眼鏡の奥の眼は鋭い。

――おう、人殺し。また会ったな。

 小田嶋は一瞬ギョッとした顔をした。

――捜査二課の取調べは騙せたかもしれないが、一課には通じねぇぞ。よく覚えておけ!

 大峯はまずガツンと一撃をかました。小田嶋は二課、一課で何度も取調べをして落ちなかったしぶとい男だ。大峯は「オレの取調べは今までとは違う、甘くないぞ、とまずあいつに知らしめる必要があった」と回想する。

 大峯の頭の中には二課の捜査資料が全て叩き込まれていた。