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 偽装誘拐を認めながらも、西村については「知りません」

――なぜ偽装誘拐なんてしたんだ。

「(詐欺を)やってもいないのに、厳しく取調べられて嫌だった。事件に巻き込まれれば自分の言うことを信用してもらえるだろうと思い、誘拐されたように装った。指は都内のホテルで一人で切断した。ドライアイスで指を凍らせて神経を麻痺させ、出刃包丁をあてて上からハンマーで3回叩いて切断した。映画なんかによくある人質の指が送り付けられる場面を参考にしたが、まさかこんなに痛いとは思いませんでした」

 偽装誘拐を認めながらも、ぬけぬけと言い訳を並べる。

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――奥さんは知ってたのか。

「はい。私の指示通りに」

 思わず絶句してしまった。夫婦ぐるみで警察を騙そうとしていたのだ。小田嶋の自宅には盗聴器が仕掛けられ、警察の動きは全て筒抜けになっていた。

――なんでそんなことをしたんだ。

「すべては詐欺事件の取調べから逃れたかったからですよ」

 ここまではスラスラ話す。

――西村はどこにいる?

「彼が金を集めていたことも、持ち逃げしたことも僕は一切関係ありません」

――心当たりはないのか。

「知りません」

――最後に会ったのはいつだ?

「2月5日。小淵沢の貸別荘まで彼を送っていきましたが、それ以降のことは知りません」

少しずつ綻びが見え始め

小田嶋は次のように説明した。

「西村に頼まれて小淵沢の貸別荘を借りた。2月5日に砧公園で落ち合い、私の車ホライゾンで小淵沢の別荘に向かった。西村は大きめのアタッシュケース2つとボストンバッグ一つを後部座席に積み込んだ。西村が誰かを騙して億単位の金を持って逃げようとしていることはすでに分かっていた。別荘に送り届けて、私は帰宅した。4月に島根県消印の絵葉書が送られてきた。『SEE YOU NEXT LIFE』と書いてあった。差出人はなかったが西村だと直感した」

 SEE YOU NEXT LIFE──、つまり西村は自死したと小田嶋は言いたかったらしい。そんな馬鹿な話があるはずがない。死人に口なし、にする気か。大峯は小田嶋の狡猾な物言いにストレスを溜め始めていた。

©️iStock.com

 そのなかで大峯は彼が乗っていたホライゾンに目をつけた。Nシステム(自動車ナンバー自動読み取り装置)にかけると、小田嶋がホライゾンで小淵沢に行ったことは確認できた。だが、少しずつ綻びが見え始めていた。小田嶋は自車のホライゾンに、盗んだナンバープレートを付けていたことが判明した。盗難ナンバーを付けた車で、西村を乗せて小淵沢までドライブしていたのだ。ますます怪しい。つまり小田嶋にはナンバープレートを盗んでまで身元を隠したい理由があった。