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 東大生の官僚離れが叫ばれているが、官庁関連の書籍がランクインしたりもする。『文部科学省』(青木栄一 中央公論新社)などがそうだ。

 京大は人文、特に哲学関連の本がよくランクインする。たとえば、ベストセラーとなった『人新世の「資本論」』(斎藤幸平 集英社)も、この4大学の中でベストテン入りした回数が最も多い。その他にもランクインした人文書は多い。ロングセラーの『思考の整理学』(外山滋比古 筑摩書房)は、年間を通じて何度もベストテンに入っている。

『推し、燃ゆ』

 早稲田は、文学書の存在感が目立つ。芥川賞や本屋大賞を受賞した作品は上位にランクインしている。また、就活本以外にもTOEICなど英語関連の本が数多くベストテン入りするのも特徴だ。

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『TOEIC L&Rテスト文法問題でる1000問』

 慶應では昨年、年間を通じて『人生は20代で決まる』(メグ・ジェイ 早川書房)が何度も1位を獲得した。就活対策本以外のキャリア、スキル関連の書籍がランクインするのが慶應の特徴だ。そのほか、サンデル関連の本が年間を通じてよく売れている。

『実力も運のうち』

 最後に。就活対策本が有名大学の大学生協で売れていることに対して「嘆かわしい、もっと高尚な本を読んでいてほしい」と思う人もいるかもしれない。私も以前、この手の本を書いたことがあり、それだけで「就活生を食い物にしている」と批判されたこともある。

 だがこの手の就活本の歴史は古く、昔も今も学生たちは進路に悩み、ヒントを求めていたということも事実だ。この手のものを一切読むな、自分の頭だけで考えろというのも酷な話であり、大人のエゴである。就活本が社会への扉を開くこともあるのだ。

慶應義塾大学 ©iStock.com

 若者の読書離れが指摘されており、実際、書籍の購入数や読書にかける時間などは低下していると言われる。とはいえ、読んでいる学生は結構な難易度の本を読んでいる。

 大学生協での就活書籍の売り上げ自体は、2020年度はコロナウイルスショックを受けて大きく低下している。

 学内で開催されるはずだった合同企業説明会などの就活支援イベントも中止や規模縮小が相次いだ影響を受け、就活対策本の売上は2019年度に対してマイナス48.2%とほぼ半減した。この影響は都市部ほど大きく、東京は対前年比でマイナス65.9%減だったが、東北はマイナス18.7%、北海道はマイナス22.9%、九州はマイナス27.7%だった。

 いまや、就活対策のノウハウは、ネット上でも手に入る。現役学生を含む就活・キャリア支援YouTuberや、Twitterの就活支援アカウントなども情報源として台頭してきている。とはいえ、診断テスト対策や業界研究に関しては書籍ならではの専門性、使いやすさが根強く活きているということだろう。

『人新世の「資本論」』

 出版社のシェアでみると、トップが東洋経済新報社の19.0%。四季報シリーズや、業界地図などのシリーズで知られている。2020年度は対前年比で3.1ポイントのシェアアップとなった。2位以降は成美堂出版(17.3%)、高橋書店(14.2%)、講談社(13.8% ※旧洋泉社の就活対策本を承継)などが続いている。

 大学生協のスタッフにはいつも熱を感じる。彼ら彼女たちこそが、若者の未来の扉を開く、背中を押す存在だ。ぜひ、たまに大学生協のランキングを覗いたり、近所の大学の書籍コーナーを訪問してみてほしい。そこには、知的な刺激がきっとある。