ジャーナリスト・評論家の立花隆さんが、4月30日、80歳で亡くなりました。立花さんは1996年から東京大学駒場キャンパスでゼミを開講し、多くの教え子を各界に送り出してきました。その後、「立花ゼミ」は形を変えながら続けられましたが、2010年3月には立花さんが東京大学を退官。それから3ヶ月後の6月26日、立花さんは“最後のゼミ生”に向けて、実に6時間にも及ぶ最終講義を行っていました。

 当時70歳だった立花さんが、次の世代に向けて残したメッセージとは――。講義の内容を収めた『二十歳の君へ』(文藝春秋)より、その一部を抜粋して紹介します。(全2回の1回目/後編に続く

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知の巨人、振り返る

『二十歳の君へ』は、もともと駒場祭の企画の延長として生まれたものですが、駒場祭のころはこの発想それ自体に、僕自身そんなに深くコミットしていたわけではありませんでした。二十歳前後の君たちへ何かを話したいという気持ちがそれほど強くあったわけではないということです。

『二十歳の君へ』的なことをしゃべりたい気持ちが強く湧き起こって来たのは、このあいだ70歳の誕生日を迎えてからです。君たちはまだ二十歳前後だから、70歳になるまでに、あと半世紀はかかるわけです。当然のことながら60歳、70歳という年齢を実感を伴って想像することは、できないでしょう。

立花隆さん ©文藝春秋

 今、60歳、70歳と一口に言ってしまいましたが、60代と70代は全然違うものだということが、自分が実際に70歳になってみてはじめて分かりました。何がそんなに違うのかというと、肉体的には大した変化はありません。変わったのは心理です。自分の死が見えてきたなという思いが急に出てきたのです。70歳の誕生日、60代に別れを告げて70代に入ったまさにその日、とうとう最後の一山を越えたんだなという思いがしました。そして今、目の前には70代という地平が広がっていますが、その向こう側に、自分の80代、90代という未来平面が広がっているかといったら、いません。70代の向こう側は、いつ来るか分からない不定型の死が広がっているだけという感じなのです。

 そうなってみてはじめて、20代の若者に何か言い残しておこうかという気持ちになりました。実はそれまでは、自分が生きることに忙しくて、若者を思いやって何かを語っておこうなどという気持ちにはなれなかったのです。

 実際に70を迎えてみると、二十歳の人間と自分とは相当違うところに来ているな、という実感があります。だけど、二十歳の君たちには想像もできないことだろうけど、70歳になるということはそれはそれで面白いものです。パッと振り返ってみると、そこに自分の70年の人生がある。それが一目で見渡せるんですよ。