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 そもそも腎臓は「血液を濾過(ろか)して老廃物をとる」という仕事をしているわけですが、その主役をつとめているのが糸球体(しきゅうたい)というフィルターです。腎臓ひとつに100万個ずつついています。ふたつ腎臓があるから、合わせて200万個。ひっきりなしに血液を濾過し、尿として老廃物を体外に押し流すという仕事をしているのです。その機能が破綻すると、毒素が体外に排出されないので、尿毒症という症状が起き、人は確実に死にます。

 糸球体は直径0.1ミリ程度の毛細血管のかたまりのような組織ですが、これは人間の臓器の中でもっとも精巧にできた器官のひとつです。電子顕微鏡で見ると驚嘆するほかないほど、微細に造りこまれ、極めて完成度が高い組織です。それゆえ、一度壊れると再生することができません。ほとんどの人体の組織が、一度死んでも再生する能力を持っていますが、脳細胞と糸球体だけは、一度死んだらそのままで、元に戻ることがありません。

©文藝春秋

 尿が作られる際に最初にできるものは「原尿」と言って、文字通り尿の元となるものです。人間が1日でどれくらいおしっこをするか、もちろん人によって差があるにせよ、せいぜい1.5リットルか2リットルくらいでしょう。では、原尿がどれくらい作られるかというと――誰か想像つきますか? なんと百数十リットルです。なんで百数十リットルも原尿が作られるのに、おしっことして排出される量が1日1、2リットルくらいなのかと言えば、原尿の水分の大部分がもう一度吸収されてリサイクルされるからなんです。このリサイクルシステムが破綻して原尿をすべて排出してしまったら、体内の水分があっという間に失われて人体は崩壊状態になります。そういう状態を尿崩症と言います。腎臓は、人体の6割が水分と言われるほど人体にとって最重要な構成成分である水のリサイクル装置でもあるんです。このリサイクル機能を請け負っているのが尿細管という組織です。

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 要するに腎臓では、糸球体と尿細管がそれぞれ違う役割を果たしながら、「体内で生産された老廃物は全部出すけれども水分は出さない」という状態を保っているわけです。そのどちらのシステムが破綻しても人間は生きていけません。

 それで今、うちの母親に何が起きているのかというと、まさにこの糸球体と尿細管の機能が両方とも失われつつあるんです。その機能が完全に失われたら間違いなく死にます。彼女の腎臓の機能があとどれぐらい残っているか、しばらく前に医者に尋ねたら「7パーセントだ」と言われました。93パーセントが既に死んでるということなんです。それが、この前体調を崩して病院に行ったときには、5.9パーセントまで落ちていると言われました。7パーセントでギリギリ普通の生活が送れる状態で、6パーセントを切ると完全に寝たきり病人状態。5パーセントまで落ちるともういつ死んでもおかしくない、ということですから、本当にいつ何が起きてもおかしくない状況に追い込まれているんです。