「口にタオルをくわえさせ後頭部で縛った」
夕飯を終えると、長男と長女はテレビを見て過ごし、玲空斗君は1人でブロックのおもちゃで遊んでいた。午後11時、あと1週間後に出産を控えていた朋美が先に寝室に入った。長男と長女も丸1日遊んだ疲れから、つづいて布団にもぐり込んだ。
忍は3人が寝静まると、玲空斗君を再びケージに入れて、1人リビングで携帯電話をいじっていた。異変が起きたのは、午前2時のことだ。突然、ケージの玲空斗君が、「あー」とか「わー」とかいう奇声を上げだしたのだ。
朋美たちが起きてしまう──。そう思った忍は、ケージに歩み寄って「静かにしろ!」と怒鳴りつけた。玲空斗君がしゅんとして静かになる。だが、その場を離れると、また「あー」「わー」と叫び声を上げる。何度注意しても、玲空斗君は叫ぶのをやめようとしない。
忍は、「新手の嫌がらせをはじめやがった」と思った。それなら力ずくで静かにさせよう。忍はケージを開け、玲空斗君の口にタオルをくわえさせ後頭部で縛った。声を出せなくなった玲空斗君は、膝を抱えた姿勢で頭を垂れて押し黙った。忍によれば、それから何度かケージをのぞき込んで確認し、4時半頃には睡魔に襲われて眠りについたそうだ。
翌朝の日の出は、6時過ぎだった。窓の外が白みはじめても、朋美は子供たちとともに眠りについていた。そんな静寂を、リビングから響いてきた忍の叫び声が破った。6時半頃のことだった。
「や、やべえ!」
寝室の朋美は、あまりの大声に飛び起きた。何が起きたのかとリビングに行くと、忍がケージの中の玲空斗君をのぞき込んでいた。玲空斗君は口にタオルをくわえさせられ、鼻から白い細かな泡の固まりを出してぐったりしている。泡は、ピンポン玉ぐらいの大きさだった。
朋美は目を疑った。
「な、何してんの!」
「夜、うっせえからこうしたんだ」
「なんで、そんなことすんのよ!」
歩み寄ると、玲空斗君の呼吸はすでに止まっていた。
忍は玲空斗君を床に横たえ、心臓マッサージを施した。小さな体は、力なく左右に揺れるだけだ。
しばらくそれを見ていた朋美が、いてもたってもいられなくなり、玲空斗君の体に触れた。まだぬくもりがある。水をかければ目を覚ますかもしれない、と思い立って玲空斗君を浴室へ運び、服の上からシャワーで水をかけた。玲空斗君はそれでも目を開けない。