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おぐら 日経時代の話で印象的なのは、〈「鈴木さんていろんな取材先と寝てネタとってるんじゃないの」という、女としては名誉以外の何物でもない噂が駆け巡っており、ワタシはブスども黙れと思いながら一応心を痛めているふりをしていた〉っていう。達観してるの。それと〈ムチムチ脚やプリプリ谷間はオジサンのためにある〉って言っちゃうところ。

鈴木 当然「痴漢されるのはそういうスキのある女が悪い」とかいう言説に対して、「お前ら男のための谷間じゃない」ってすごく頑張って言ってきた人たちに対して、私からも敬意はあるんだけど。でも谷間は、他に有難がる人いないじゃん。女は別に有難がらないし。ひとりで部屋にいたら谷間出さないし(笑)。

日経記者時代の「水着プロレス・報酬14万円」

おぐら 水着でプロレスしたエピソードもぶっ飛んでた。まず条件の時点ですごい。

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〈①水着持参、貸出もあるがかなり露出度の高いものになるので自分で持ってきたほうが無難、②水着姿以上の露出はなし、③男性との接触なし(握手くらいはあるかもしれない)、④打ち身や擦り傷ができるかもしれない、⑤顔が腫れてもOKな場合はプラス5万、⑥拘束時間は夕方6時より1時間~1時間半程度、⑦男性は基本的にひとり、稀に増えることあり(身分証明あり)⑧ギャラは最低10万円〉

鈴木 目黒あたりの綺麗なビルの地下の部屋に入ったらプロレスリングがあって。各々、水着に着替えたらリングにあがって「ひっぱたき合い」をしてほしいっていう話だったんだよね。主催者のおじさん(代官山在住)は水着の女の子たちが顔や上半身を平手でひっぱたき合うのを紳士的に観戦しているだけ。

おぐら これ知らない人のブログに書いてあったら、完全に釣りだと思うよ。

 

鈴木 本当にあったの(笑)。私も『おじさんメモリアル』に書いて消化するまで、日経時代の思い出として忘れかけてたんだから。一戦終えたキャバ嬢風の子とリングに上がって、のっけから往復ビンタしまくって。反撃にもあったけど一応会社員の手前、顔への打撃はNGで蹴りと二の腕へのビンタを受けた。おじさんからの「気の強い子が好き」「勝ち気な口調で相手を罵ってから叩いてほしい」という要望で、「おら、ギブって言えよ」とか罵り合ったんだから(笑)。

おぐら それでいくらもらったの?

鈴木 1ファイト10万円っていう話だったんだけど、爪が折れちゃったことを気遣ってくれたのか、14万円受け取りました。

おぐら そういうエピソードを本にして残すことは、都築響一さんが『TOKYO STYLE』でリアルな東京一人暮らしの部屋を写真集として出版したり、スナックや秘宝館を文化として記録する活動にも通じるような気がする。アングラ文化人類学者としての鈴木涼美。

鈴木 アングラっていうか、ただのOLが経験した変なおじさんの話だよ(笑)。別にアンダーグラウンドに潜って取って来た話じゃない。私の日常に落っこちてたの。記者クラブから駆け付けたっていうのはちょっとおもしろいけど。

おぐら ちょっと前に「真空パック」(※)が問題になってたでしょ。ああいうニッチな趣味とか、あるいは異常な空間っていうのは、可視化されないだけであるところには昔からあって。それがネットによって一気に誰の目にも触れられるところに出ちゃうと、拒絶反応は当然ある。だからこそ、きちんと文脈を理解したセンスのある人が、分析と時代背景と身体性を伴って書くべきだと思う。

※9月3日、女性弁護士のツイッターアカウントで「『真空パック アダルトビデオ』で検索して吐き気。」というツイートを連投され、危険性とともにその性的嗜好を「猟奇的」と断じ、「真空パック」がツイッターのトレンドに急浮上して話題を呼んだ。