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鈴木 AVといえば、『おじさんメモリアル』に迷って書かなかったAV監督の話があるんだけど。その人はSM系の脚本も演出も上手くて、有名なレーベルから毎月その人の作品が必ず出ている人気監督で。自分も作品に出演してプレイするんだけど、すっごいカッコいい人だったの。黒ずくめの格好をしていて。

おぐら 職人だ。いや、上手い下手がわかるのも職人だけど(笑)。

鈴木 彼の経営しているSMバーに大学の後輩を連れて行ったこともあって、そこで吊るされたこともある。もちろん、引退してからは疎遠だったけど、あるとき気になって連絡したら「どうしても会って話さなければならないことがある」って返ってきて。それで会ったら、風貌から喋り方から全て変わってた。体重も3倍ぐらいになって。ものすごい負のオーラを出してて、あれもまたメモリアルなおじさんではあるけど、時間の流れが残酷に刻まれていて、見ていて辛かった。

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おぐら カッコいい姿を見ているぶん、よけいに辛いよね。涼美先生には記憶が鮮明なうちに、いろいろ書き残してほしいけどな。それこそ、いまLINE LIVEとかメルカリとかにすべての時間と労力を注ぎ込んでいる10代の子たちが、30代になったとき冷静に振り返った文献を残せるのかなって。

鈴木 でもそういう人が出てきてほしいから、私も「Popteen」とかで人材発掘しないと。

おぐら ギャル文化はやっぱり、1回終わりを迎えたからこそ文化として評価されはじめたよね。

鈴木 確かに。いま、にこるん(藤田ニコル)たちを見ていると、当時のギャルとは違うなって思う。

おぐら 真面目なんだよね。不良じゃない。ギャルはケンカとかしてたじゃん。

鈴木 ルーズソックスで首絞めたりしてたよ(笑)。だから、同じ「Popteen」は読んできたかもしれないけど、ギャルの系譜の延長とは思わない。私たちと同じ時代にいたら、にこるんはギャルにならなかったんじゃないかな。あ、でも浜田ブリトニーはギャルだと思う(笑)。そもそももうちょっと汚かったよ、当時の女子高生は。

おぐら ギャル曽根なんて芸名になっちゃう時点で、全盛期は過ぎてたんだよね。10代の女の子の価値、自己評価が変わってきてるのもあるけど。

 

「いくらもらったら好きじゃない人とセックスしますか?」

鈴木 これは本にも書いたけど、とある求人情報誌のライターだった知り合いが街頭で「いくらもらったら好きじゃない人とセックスしますか?」っていうアンケートをやったら、一番多い答えが100万円なんだって。グラドルでも5万バックが相場なのに、100万円って。もちろん、辛口の風俗嬢に言わせれば「いやあなた絶対2万だから、2万」となる。この感覚の違いってある意味面白いじゃないですか。水商売や風俗の子って高飛車だけど、普通の人が100万円もらわないとやらないことを5万でやっていたりするわけですよ。

おぐら グラドルの手取りが5万の世界と街頭は別の世界なんだよ。いや、本当は一緒なんだけど。自分の価値を高く見積もりすぎているというより、それぐらいイヤだっていうだけで。100万円って抽象的な数字じゃん。

鈴木 もちろんそれだけ嫌でそれだけ非現実だという意味だから、実際に口にする数字は100万円でも1億円でもいいのだろうけど、女性の価値って誰がつけるのか、市場価格と自己評価ってどうやって決まっているのかっていうのは面白いですよ。私はエッチ100万円と答える人も、バック1万円のソープで働いている子も、両方間近で見てきたと思ってる。そして、同じくらい魅力的だった。ちなみに、メディアが取り上げるような実際のパパ活市場なんてしょぼくて、超ハイスペックな子たちが1回5万とか6万とか、せいぜい7万か8万で。10万もらったら、それはよっぽど10万払いたい人に当たっただけ。SMで100万のチップをもらった子いるけど、そういう人はほんと通り魔みたいなもので。

 

おぐら 涼美先生が語ると100万円が具体的になっちゃう(笑)。おじさんたちからは、こうやって本に書かれたことでリアクションはあったりするの?

鈴木 そんなに反応はないかも。書いてもないのに「おれのこと書いただろ」とか言ってきた人が一人いたけど(笑)。本当に感謝してる人については私たちも悪口は言わないわけですよ。悪口のネタになる人って、こちらが提供したり、背負わされたことの対価を感じられなかった、と思う人ですよね。話を聞かせてくれるキャバ嬢や風俗嬢も、本当に好きだった人のことだったら、別にそんなに悪口は言わないじゃないですか。噂をされる程度の価値だったというか。それなりに文句があるから私に言ってくるわけで。私自身も、1万円足りなかった気がすると思う人について、「その1万円分はネタとして回収しますよ」って、そういう気分で書いてます。

おぐら 出てくるおじさんたちのエピソードは秀逸だけど、社会的にはみんな普通の人なんだよね。会社とか家庭ではどんなふうに過ごしてるのか、思いをはせるよ。

鈴木 中にはキモい人もいるけど、だいたいは普通のおじさん。

おぐら 『おじさんメモリアル』に書かれているおじさんたちは、世の中のほとんどのおじさんが妄想だけで終わってしまうようなことを、実現にこぎつけたとも言えるわけで。ちゃんと行動を起こした結果、体験は得たけど、最終的におもしろおかしく書かれちゃった。

鈴木 どこにでもいるおじさんの、よくあるちょっとダサい話。それを私たちが陰で悪口のネタにしてるだけ。この本に出てくるおじさんなんて、どこのキャバクラに行っても必ず一人くらいは似たような人がいますよ。おじさんたちも、私たちの取るに足らない日常を、「女子高生の性の乱れ!」とか、「アラサー女子の肉食化!」とかいちいちネタにしてきたでしょ? もちろん自分もネタにされる覚悟はあったんですよね??

写真=鈴木七絵/文藝春秋

おじさんメモリアル

鈴木 涼美(著)

扶桑社
2017年8月8日 発売

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新・ニッポン分断時代

速水 健朗(著)

本の雑誌社
2017年6月23日 発売

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