樹海には撮影で来ている人も多い
似たような落とし物には、バイクのヘルメットがある。内側のスポンジの部分はすっかり水を吸って苔むしていた。
これもなぜヘルメットを持って樹海の中に入ろうと思ったのか? そしてなぜヘルメットを捨てたのか? 捨てて帰ったとしたなら、彼(彼女)はノーヘルでバイクに乗って帰ったのだろうか? ちょっと怪談のような怖さのある落とし物なのだ。
樹海には撮影で来ている人も多い。
自然を写真に撮りにきた人が、カメラの機材を落としていく場合もある。コンパクトカメラやレンズが落ちている。僕自身も、カメラのレンズキャップを落としたことがある。樹海にはきっといくつものレンズキャップが落ちていることだろう。
音楽のプロモーションビデオや、アダルトビデオの撮影も時にはおこなわれていた。撮影で使われたのであろうマットレスが捨てられていたこともあった。このマットレスは10年近くそのまま放置され、年々ボロくなっていくのを、樹海に来るたび見続けた。
樹海に来たら、何も残さず、何も持たず、帰ろう。
乗り捨てられた建設会社の社用車
ここまでは比較的小さい落とし物を紹介したので、今回はもっと大きい落とし物を紹介する。どれくらいの規模の物かといえば、自動車の類だ。
樹海に入る際よく利用する富岳風穴の道の駅の駐車場には、ずっと停められたままの車があった。大阪ナンバーの軽自動車だ。気がついたのは樹海に雪が降ったあとだった。その1台だけ、雪が積もりっぱなしになっていたから変に思ったのだ。
自動車の内部を覗いてみると、工事現場で使うヘルメットなどが入っている。おそらく建設会社の社用車だったのだろう。社用車でここまで来て、樹海に入って自殺した可能性が高い。大阪から樹海までは5、6時間ほど。最後のドライブの間はどんなことを考えるものなのだろうか?
最初は他の車と紛れていたが、長い期間ずっと放置してあったため徐々に汚れていくし、タイヤの空気は抜けてぺしゃんこになっていく。僕の他にも、置き去りにされた自動車だと気づく人が増えて、写真を撮る人も増えていった。先日、樹海に行った時には、とうとう自動車がなくなっていた。どうやら誰かが通報して、どこかに移送されたらしい。