「家は流されてしまいました。妻がいたはずなんです。自衛隊の捜索を待つことしかできませんが、あまり期待はできないのかな……」
静岡県熱海市の造園業、田中公一さん(71)は静かに肩を落とした。
熱海市の伊豆山地区で7月3日に発生した土石流は、山中から逢初川沿いに、海まで1~2キロにわたって流れ、多くの家屋を破壊し、判明しているだけで2人の命を奪った。安否不明の行方不明者は現在も約20人いるとされているが、被害の全貌はいまだ不明だ。現地では4日も自衛隊や警察、消防など約1000人規模の態勢で早朝から日没まで懸命の捜索活動が行われた。
正確な被害人数はいまだ不明。捜索は難航
「静岡県は少なくとも130棟の建物が被害を受けたと発表。被害は大きくなってきていますが、正確な被害人数はまだ分かりません。4日には、建物の2階に取り残されるなどした住民が救助されています。一方で倒壊したり、跡形もなくなってしまった家屋もある中、雨が降り続き、二次災害が起きる恐れも高い。捜索は難航しています」(大手紙社会部記者)
災害から一夜明けた被災地区は規制線が前日よりもさらに広範囲にわたって張られ、報道陣も地元住民も立ち入ることができない状態になっていた。
家の中にいるはずの妻に呼びかけたが…
自宅から離れた高台から、捜索活動を見守っていた前出の田中さんは災害発生時、自宅で土石流の音を聞いた。3日午前11時前には、妻の路子さん(70)に「近所の知人と連絡がとれない」と言われ、車でその知人の家の様子を確認しに行ったという。しかし、土砂の影響などで思うように進めず、自宅に戻った。すると、
「自宅の前に土砂が流れこんでいて、多くの建物もなくなっていた。何が起こったんだろうと考えているうちに、また土石流がやってきて。慌てて、家の中にいるはずの妻に向かって、『路子!』と大声で呼びかけたが反応はなかった」