旧車の「不快ポイント」を改善
現代の車と比べたときに、不快さにつながりやすいポイントとして、井上氏は「振動や音、車内の熱ごもり」といった要素を挙げる。すなわち「足回り」「遮音」「遮熱」といった観点からの対策が必要になるわけである。
若い頃は気にならなかった路面からの突き上げや、運転中の細かな振動を防ぐうえで、サスペンションのセッティングは最重要ポイントだ。
「ウチの足回りは50代以上が乗っても疲れないように作ってる。突き上げをなくすっていう自分の考えと、GTドライバーとかのプロに乗ってもらった意見をふまえて、細かくセッティングを詰めていく」
次に、熱や音といったポイントである。走行そのものには影響しないため見過ごされやすいが、「暑くてうるさい車内」は疲労に直結してしまう。
「昔の車だとなおさら、カセットテープが溶けちゃうくらい熱持つことだってあるから、そういうのも全部対策していく。あとは音だね。年食ってくるとカチャカチャって音とか全部、疲れの原因になるんだよね。マフラーのこもり音とかもさ」
確かに、意図せず耳に入る音はストレスの原因になる。一般的には防音材をドア内部に貼るといった対策で済まされるが、スターロードではボディ全面にわたり、およそ60kg分もの素材を使って防音処置を施している。
「サーキットでタイム出すってんなら不利になるけどさ。普通に乗ってる時の疲れ方が全然違うから」
その他、常に身を預けることになる「シート」も重要だ。
「昔のシートだと人間工学の観点がないからさ。しっかり体を包んでくれれば、軸もブレないし疲れにくい」
旧車に乗るのに「我慢」はいらない
旧車オーナーのなかには、「故障するほど愛着がわく」「快適装備など邪道」といった考え方を堅持する向きもある。もちろんそうした「こだわり」が、当人にとっての価値となることもあるだろう。
一方で、井上氏の「ギャップを埋める」という考え方のうちには、肩肘張らずに長くカーライフを楽しんでほしいという思い、さらには旧車に関心を抱く層に対して間口を広げたいという思いがあるように見受けられた。
「男だったら、みたいにかっこつけてもいいけどね。でも奥にあるのはそういう(快適に乗りたい)気持ちじゃないかなって」
典型的なのが、クーラーキットの開発である。スターロードはハコスカ・ケンメリ・Zそれぞれに、ボルトオン(無加工)で装着できるキットを開発し、全国のショップや個人に販売している。
「10年くらい前かな。開発した当時はメーカーの汎用品を加工して作らなきゃいけなかったから、ほとんどのショップは電装屋に出してたのよ」
コストや手間がかかることもあり、「男なんだから、クーラーなんて必要ない」という風潮も強かったそうだ。
「俺がクーラーないと無理だからさ。ベアリング1つから台湾の工場直接回って、材料とか品質全部見て。ネジだけで着けられるキット作って」
開発当初は「そんなもの必要ない」と言うショップも多かったが、ユーザー側の要望に後押しされる形で取り扱うショップも増え、販売も伸びているという。
何らかのきっかけで旧車に興味を持ったはいいが、クーラーが効かなかったり、乗り心地が悪かったり、故障が多く維持費が嵩んだりと、実際に所有を考えるうえでハードルとなるポイントは多い。「ハードルを越えてこそ本物の旧車好き」とも言えるかもしれないが、ストレスなく乗れたとしても、旧車としての魅力は変わらないだろう。
「うるさい、暑い、ガタガタするとか、イヤでしょ。デートもできないよ」
あっけらかんと井上氏は言う。
長く付き合ううえで適度な「ゆるさ」が大切だというのは、人も車も同じなのかもしれない。
【取材協力】
有限会社スターロード
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