ボディのサビはその箇所の強度に影響するだけでなく、全体としての歪みの原因にもなる。人間の体でも「痛い場所をかばって他のところも痛くなる」ということがあるが、小さな歪みが全体の機能を阻害し、より大きな問題を引き起こす。症状からピンポイントに根本原因を探り当てる技術は、熟練の医師にも通じるところがありそうだ。
しかし「腐食箇所への対処」と言葉にするのは簡単だが、質を高めようとすればそれだけ地道な工程が要求される。
「1箇所直すのに1週間とか全然かかるよ、全部だったら年単位」
錆びた部分を切り取り、切り取った部分と同じ厚み・形状に鉄板を加工し、溶接することになるのだが、切除する部分を決めるにあたっても、「溶接後のボディ強度に影響はないか」を見極めなければならない。
ところが、見た目を整えることだけが目的なら、このような工程は必要ない。サビが残ったまま上からパテや薄い鉄板でフタをしてしまえば、傍目にはわからない程度に仕上げられ、時間としても数日かからない。
「原価も時間も全然違うよ。そりゃ儲かるだろうけど、強度の問題はそのまま。嫌でしょ、走ってて問題が出るとか、よそで問題が見つかるとかさ。ウチでやるからには、オーナーさんに恥ずかしい思いをしてほしくない」
目につく箇所だけ整えるような手法でも、建前上は「レストア」を標榜しうるのかもしれない。実際に、車両の問題に気づかぬまま、旧車ライフを満喫しているオーナーもいるのだろう。それでも、「どこに出しても恥ずかしくない」状態にすること、すなわち「見えないところ」の問題にも徹底的に対処することが、長く乗るうえでのリスクを潰すことになるのは言うまでもない。
「ないものを作る」作業
旧車のレストアにおいてネックとなるポイントのひとつに、「欠品となったパーツの扱い」が挙げられる。
たとえば伊藤かずえ氏のシーマのように、メーカー側が大々的にレストアを行うのであれば、問題のある箇所の部品を交換する形で進められるかもしれない。しかし基本的に、レストアショップが問題のある箇所を直すにあたっては、供給のストップした部品をその都度製作する必要が生じてくる。
「部品交換でも、レストアはレストアだよ。ただ、自分たちの気持ちとしてはやっぱり、『それってレストアっつーか部品交換だろ』みたいに思うこともあるよ。偏った考えなんだと思うけど」
既存部品による代替に留まらず、現車に合わせて「ないものを作る」技術が、レストアの質を左右する。とりわけ特定車種の専門家であるからには、その技術に対する矜持があって然るべきだろう。