昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/07/18

genre : ライフ, 社会

 ボディのサビはその箇所の強度に影響するだけでなく、全体としての歪みの原因にもなる。人間の体でも「痛い場所をかばって他のところも痛くなる」ということがあるが、小さな歪みが全体の機能を阻害し、より大きな問題を引き起こす。症状からピンポイントに根本原因を探り当てる技術は、熟練の医師にも通じるところがありそうだ。

簡易的な修繕は行われていても、奥まで剥がしてみるとサビが著しく進行しているケースも珍しくない 写真提供=有限会社スターロード

 しかし「腐食箇所への対処」と言葉にするのは簡単だが、質を高めようとすればそれだけ地道な工程が要求される。

「1箇所直すのに1週間とか全然かかるよ、全部だったら年単位」

 錆びた部分を切り取り、切り取った部分と同じ厚み・形状に鉄板を加工し、溶接することになるのだが、切除する部分を決めるにあたっても、「溶接後のボディ強度に影響はないか」を見極めなければならない。

ボディ強度への影響を鑑みながら、サビの発生した部分を取り除き、純正と同じ形状に鉄板を成形する 写真提供=有限会社スターロード
鉄板を溶接し、半田付けで仕上げる。継ぎ目もわからず、強度もしっかり確保されている 写真提供=有限会社スターロード

 ところが、見た目を整えることだけが目的なら、このような工程は必要ない。サビが残ったまま上からパテや薄い鉄板でフタをしてしまえば、傍目にはわからない程度に仕上げられ、時間としても数日かからない。

サイドステップの鉄板を剥がし、過去になされた簡易的な修繕の形跡が発見された画像。応急処置のようにサビを薄い鉄板で覆っているが、サビの進行は一切止められていない 写真提供=有限会社スターロード

「原価も時間も全然違うよ。そりゃ儲かるだろうけど、強度の問題はそのまま。嫌でしょ、走ってて問題が出るとか、よそで問題が見つかるとかさ。ウチでやるからには、オーナーさんに恥ずかしい思いをしてほしくない」

 目につく箇所だけ整えるような手法でも、建前上は「レストア」を標榜しうるのかもしれない。実際に、車両の問題に気づかぬまま、旧車ライフを満喫しているオーナーもいるのだろう。それでも、「どこに出しても恥ずかしくない」状態にすること、すなわち「見えないところ」の問題にも徹底的に対処することが、長く乗るうえでのリスクを潰すことになるのは言うまでもない。

「ないものを作る」作業

 旧車のレストアにおいてネックとなるポイントのひとつに、「欠品となったパーツの扱い」が挙げられる。

 たとえば伊藤かずえ氏のシーマのように、メーカー側が大々的にレストアを行うのであれば、問題のある箇所の部品を交換する形で進められるかもしれない。しかし基本的に、レストアショップが問題のある箇所を直すにあたっては、供給のストップした部品をその都度製作する必要が生じてくる。

先のサイドステップは、純正部品が現車に合わなかったため、新たに現車に合わせて製作することになった。内部に防錆処理を施し、溶接していく 写真提供=有限会社スターロード

「部品交換でも、レストアはレストアだよ。ただ、自分たちの気持ちとしてはやっぱり、『それってレストアっつーか部品交換だろ』みたいに思うこともあるよ。偏った考えなんだと思うけど」

ボディが仕上がった状態。あらゆる箇所のサビを取り除いたうえで、現車に合わせて部品を製作していくことになるから、ボディの修繕だけでも年単位の時間を要することもある 写真提供=有限会社スターロード
ハコスカの完成車両。往年の輝きが蘇る 写真提供=有限会社スターロード

 既存部品による代替に留まらず、現車に合わせて「ないものを作る」技術が、レストアの質を左右する。とりわけ特定車種の専門家であるからには、その技術に対する矜持があって然るべきだろう。