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《写真多数》50年前のボロボロ“ハコスカ”を新車同然の乗り心地に…奥深すぎる「レストア」の世界に密着する

2021/07/18

genre : ライフ, 社会

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 新たに部品を製作する際、なるべくメーカー純正の「オリジナル状態」に寄せることも選択肢だが、「快適性や走行性能をオリジナルよりも高めたい」といったユーザー側の希望に応えられるよう、独自の観点で改良を加えたパーツを取り入れることもありうる。

オリジナルのマフラーを装着したハコスカ。音だけではなく、排気効率も徹底的に追求して開発している。製造時においても、成形や溶接の精度に妥協はない 写真=坂口尚

 スターロードはハコスカやZなど専門とする車種について、オリジナルのパーツ開発も行っており、全国のユーザー、ショップのほか、世界各国から注文が寄せられている。欧米やアジア圏だけでなく、「こんな国にも日本の旧車が」というケースもしばしばだ。つい先日は「トリニダード・トバゴ」からの注文があったというから、旧車ブーム恐るべしである。

ハコスカに装着されるのは、スターロードオリジナルのアルミホイール。写真の高輝度タイプのほか、つや消しタイプも設定する 写真=坂口尚

 やはり専門領域を突き詰めるほど、その車種への対応力は向上していくというわけだ。

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「美化された思い出とのギャップ」を埋める

 それでは一方で、旧車を所有するオーナー側の事情はどうか。

 旧車のオーナーには「同じ車を乗り続けてきた」ケースもあるが、「青春時代を共にした車にまた乗りたい」といった思いから、再度その車種を探すケースも多いようだ。

「昔乗ってたからって人は多いね。ただ、その間に何十年って新しい車に乗ってきたわけだから、感覚はそっちになってる。昔のことが美化されてるのもあって、そのまま乗っても『こんなヤバかったっけ』みたいになることも多いよ。体も変化してるしね」

 性能や装備差に加え、ユーザー自身の感覚的・身体的変化もあり、「美化された思い出とのギャップ」にショックを受けるというわけだ。

 旧車マニアのうちには、「こうしたショックを乗り越えてこそ」と考える向きもあろうが、井上氏の方針は異なっている。

「ウチで作ることで、そういう『隙間』を埋めていく。旧車らしさはそのままに、疲労の原因を取り除いて、クオリティを現行車に近づける」

ハコスカにカーナビ、という意外な組み合わせ。「ナビなど不要」とする昔気質の車好きも多いが、スターロードは柔軟に顧客のニーズに応えていく 写真=坂口尚

 現行車レベルのクオリティを実現するため、井上氏は感覚のアップデートを欠かさない。現行のGT-Rが発表された時も、現代における最高峰の技術を知るべく即刻注文を入れ、その性能を確かめた。