いくらお金を刷っても富裕層へ流れてしまう構造
堀内 5冊目『21世紀の資本』(トマ・ピケティ著)がその答えとなると思います。今の資本主義が暴走している理由は、「金融」資本主義だからです。お金がお金を勝手に稼ぐこのシステムが異常なのです。今回、コロナ対策として各国政府が巨大な予算を組み、市中に流しました。けれどもリーマンショックのときと同じで、いくらお金を刷ってもそれが満遍なく人びとに行き渡ることはなく、ほとんどが富裕層へと流れていってしまう構造になっています。富裕層は低率のキャピタルゲイン課税の恩恵を受けているだけでなく、ほとんどがタックスヘイブン(租税回避地)を使っているので、実際の税率がすごく低い。ピケティは、国際的な課税条約を締結して税逃れを取り締まるべきだと主張しています。
斎藤 逆に言うと、金融資本主義の部分を取り払えば、今よりもすごく細った資本主義になって、もはや資本主義ではないものになるんじゃないかな、と思いませんか。
堀内 そうだと思います。暴走しない控えめな「資本主義」ですね。
もっと平等になるのも悪くない
斎藤 それを私は、社会主義と呼んでいます。ピケティが昨年刊行した本、そのタイトルがなんとTime for Socialism。もちろん、ソ連時代に戻ろう、すべて計画経済にしよう、と言っているわけではありません。働いていない人たちが不労所得を得て、そのお金を倍増させる。実体経済と関係ないところで、実際のニーズを満たさないものを大量に買って地球環境を破壊している。それはもうやめにして、人々の生活を安定させたり、意味のないものを作るのをやめて労働時間を減らして人間らしい生活を送った方がいい。そのためにもっと平等になるのも悪くないよ、ということです。
堀内 資本主義サイドからも、格差拡大や地球環境破壊を食い止めようという問題意識から、SDGs、ESG投資、サステナブル経営、パーパス経営などの動きが出ています。
斎藤 私自身はSDGs企業の9割はウォッシュ(まやかし)と思っていますが、残りの1割に期待しています。資本主義の真ん中を歩んできた堀内さんと、マルクス研究者の私とでは、バックグラウンドがかなり違います。でも、堀内さんが思い描かれている社会は、ソーシャリズム的な理念に近いと感じました。僕の本のなかでは、それを〈コモン〉に基づく社会、つまりコミュニズムと呼んでいます。立場は違えど、意外に共通点もあるのかも知れませんね。