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コロナ対策で政府が供給した巨額のお金はどこへ消えたか? 銀行も証券会社も退職した“森ビル”元幹部が語る資本主義の“限界”

コロナ対策で政府が供給した巨額のお金はどこへ消えたか? 銀行も証券会社も退職した“森ビル”元幹部が語る資本主義の“限界”

堀内勉さんが勧めるビジネス・経済書5冊 #2

source : 翻訳出版部

genre : ニュース, 読書, 社会, 経済, 働き方, ライフスタイル

現在のSDGsに通じる考え方

斎藤 宇沢さんは、社会的共通資本という概念も提案していますね。私の考える〈コモン〉(共有財産)とも近い考え方です。

堀内 はい。水や空気や山などの自然、道路や電力などのインフラ、教育や医療などの制度を、社会的共通資本と呼んでいます。これらは、国家や市場に任せるのではなく、専門的知見があり、職業倫理をもった専門家が管理・運営すべき、と言っています。現在のSDGs(持続可能な開発目標)の考え方にも通じるものですね。

 そんな宇沢先生と対極にあるのが、新自由主義の象徴とされる経済学者ミルトン・フリードマンです。フリードマンは、人間の自由の重要性を強調して、全てを市場にまかせるべきだとして、「べき論」を追求します。人間のリアリティを超越して、市場という万能のシステムを作ってそれをうまく動かせば世の中がうまく回る、と提唱しています。けれどもこうした考えだと、そこに組み込まれる個々の人間は、必ず疎外されてしまいます。

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斎藤 まさに、マルクスが指摘した疎外に通じますね。

斎藤幸平さん

人間的なものに目を向けるという教育

堀内 4冊目は『イノベーション・オブ・ライフ』(クレイトン・M・クリステンセン他著)です。イノベーションのジレンマで有名なハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の教授が、最終講義で学生に伝えたメッセージです。クリステンセン教授は、エンロンのCEOになったHBSの同級生が不正会計事件を起こして刑務所に入ったことに衝撃を受けたそうです。それだけでなく、職業的な成功にもかかわらず不幸になる卒業生が同校にはあまりに多い。本当の人生の意味を問いかけたこの本もひとつのきっかけとなり、リーマンショック後、HBSは徳や人格を重視する人格教育へ舵を切ったそうです。

斎藤 人間的なものに目を向けるという教育ですね。堀内さんは、人間のリアリティをきめ細かく観察するビジネス書・経済書の系譜が好きなのですね。

堀内 ええ。人間へのリアリティが前提にないと、どんなシステムを作っても必ず人間疎外が起きます。そして、システムをうまく利用する数パーセントだけが勝ち組になり、残りの大半の人たちは負け組になる。

斎藤 市場というシステムが暴走すると、働いている労働者たちの幸福も、人間として持っている資質も、歪められてしまいますよね。資本主義を野放しにすれば、暴利をむさぼる人たちばかりになってしまう傾向がある。