2021年5月30日に行われた第8回高校生直木賞は、伊吹有喜さんの『雲を紡ぐ』(文藝春秋)、加藤シゲアキさんの『オルタネート』(新潮社)の史上初の2作受賞となった。4時間をかけて受賞作を選んだ、高校生たちの熱い議論の様子をお伝えする。(全2回の2回目。前編を読む

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昨年『渦』で高校生直木賞を受賞した大島真寿美さんも、高校生たちの議論に耳を傾けた ©文藝春秋

伊吹有喜『雲を紡ぐ

 ・不登校やいじめなどの話題は身近で共感しやすい。登場人物は自分の思いを表現するのが苦手だが、やがてお互いのことを理解できるのが良い。もし自分が主人公だったら、と考えさせられる。

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 ・同年代の主人公で感情移入しやすい。気づかれないいじめなど、曖昧なところに現実味がある。

 ・主人公に感情移入して読むと、母や祖母に違和感がこみ上げてきて、イライラしてくる(笑)。

 ・悩みがリアルなあまり共感しすぎて疲れるところもあったが、美しい情景描写で救われた。映像化してほしい。

 ・色、特に赤の使い方が印象的。ホームスパンやぼや騒ぎにも赤が使われる。

 ・赤のイメージはまずは「赤ちゃん」。守られる存在から、自分で自分を守ろうとする意志を持つ存在へ。自分探しの普遍的なテーマに対して、ホームスパンなどオリジナリティのある設定のバランスがいい。『西の魔女が死んだ』に通ずる。人間関係がほんとうにありそう。

誰にでも通ずる意味が込められているタイトル

 ・主人公は素直にはなったが、それがこの小説での「成長」なのだろうか。

 ・主人公以外の視点、たとえば父親の視点もあるのがいい。普段本をあまり読まない高校生には、王道のものとして勧められる気がする。主人公自身はあまり成長していないかもしれないけれど、人間簡単に成長するものではないので、これでいいのでは。

 ・主人公よりもお父さんに共感できる。

 ・家庭そのものが主人公なのかもしれない。周りに比べて主人公の変化が見えにくく、お父さんがいいキャラで、こちらが主人公? 自分の親の気持ちを理解するのに役立つかも。

 ・家族の繋がりが次第に薄れていく高校生という時期にこそ、読むに値する。

 ・はじめ知識のない主人公とともに読者が学んでいくという構造は『八月の銀の雪』と同じで、ただ自分としてはホームスパンより後者の科学の方に個人的には興味がある。

 ・しかし、ホームスパンや「紡ぐ」というタイトルには、一度壊れた人間関係を再構築していくという意味がこめられていて、誰にでも通ずるところがある。