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2021/07/22

 ・いや、一般的にSFやファンタジーなどでは、たとえば地球に生えていない植物がでてきても、それをいちいち説明したりはしない。『オルタネート』にも同性愛などの問題が未消化のまま並べられているように見えるかもしれないが、それはあまりクローズアップして考えるものではなく、そうしたものが既に日常に溶け込んでいる世界として描かれている。あまり社会的なメッセージに囚われるべきでなく、テーマは一貫して「青春」であり、恋愛と部活とで引き裂かれるが、それこそ両立の難しさ、高校生としての未熟さを示しており、それこそが青春。そこは近未来の世界でも変わらない。

家族愛か青春か

 ・『オルタネート』は全体の雰囲気が文化祭のよう。準備が楽しく、本番盛り上がって、後夜祭があって、最後に余韻を残して帰る感じがいい。

 ・校内では『オルタネート』の評価は高くなかったが、ここまでの議論を聞いて、自分の感動は間違っていなかったとおもった。今生きている世界をここまでリアルに切り取っている作品に出合ったのははじめてだった。SNSを使っていろんな人とつながっている実感が描かれている。『雲を紡ぐ』は読んでいる途中は夢中だったが、高校生にしては幼く、もっと深い秘めた思いがあるはずという気がする。

 ・『オルタネート』は3人の感情の振れ幅をていねいに描いていて、それが終盤で読者の心に痛みを覚えさせる。大人になったら感じられないかもしれない青春の痛み。他の作品よりもその痛みが深い。

 ・家族愛か青春か。美しいのは『雲を紡ぐ』で、うまいのは『オルタネート』。

 残った2作を巡っての激論は尽きないが、ここで最終評決。集計の時間がこれほど長く感ぜられた本選もなかった。結果は16対16の同数。発表されたときの参加者一同の驚きの表情は忘れられない。

Ⓒ中尾仁士、杉浦しおり

 ここからさらに議論を重ねるかどうか参加者たちに尋ねたが、4時間かけてのこの同票にはそれだけの重みがあると判断された。高校生直木賞はじまって以来の2作同時受賞となった。

 議論が終わってもまだ話し足りない者たちは、チャットを使って話し込んでいた。ここで築かれた関係が、なんらかの形で今後も残ること、そして来年もまたこうした議論を楽しんでくれる高校生が大勢現れることを願いつつ、本選の報告とする。

INFORMATION

夏休みには一般の方も参加が可能な「高校生直木賞」のイベントも開催されます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
https://books.bunshun.jp/articles/-/6328

オール讀物2020年7月号

 

文藝春秋

2020年6月22日 発売

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