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2021/07/15

監督の求めで、バッサリとショートカットに

 伊藤万理華は、この映画で演じた犬八と、英勉監督の求めで切ったショートカットの鮮烈なイメージを武器に俳優としてのチャンスをつかんでいく。現在放送されているテレビ東京の連続ドラマ『お耳に合いましたら。』で主演を張る彼女は、悩んでいた犬八のころとは見違えるように演技の幅を広げている。

 ポッドキャストと連動して作られたその物語には、沈黙していた平凡な女の子がマイクの前で話し始める、自己表現に足を踏み出すという一本の太い芯が通っている。それは伊藤万理華が俳優として、中元日芽香が大学で学んで心理カウンセラーとして歩き始めたように、あの「きっかけ」の歌詞の中の少女と同じように最初の一歩を踏み出す物語だ。

テレビ東京ドラマチャンネルより

 ドラマはすでにその巧みな脚本、意表をつくストーリーで多くの反響を呼び、エンディングで幼少からクラシックバレエを習った伊藤万理華の踊るダンスの美しさにも賞賛が寄せられている。8月にはドラマと同じ松本荘史監督による伊藤万理華の主演映画『サマーフィルムにのって』の公開が控える。

 14日に都内で行われた特別試写会では、昨年の東京国際映画祭を皮切りに多くの海外の国際映画祭での上映が予定されていることが報告され、共演者の河合優美から「伊藤万理華が熱を持っていたから(現場の一体感が)実現できた」という言葉が贈られた。 

 俳優としての伊藤万理華の顔には強いメッセージ、物語がある。ポッドキャストDJからアマチュア映画を作る女子高生まで、伊藤万理華はたぶん、ものを作る女の子、自分を表現したいと挑む女の子を演じるのが得意な俳優なのだ。

伊藤万理華や中元日芽香が新しい道に踏み出す足音

「最初にドームのセットリストが配られた時、『きっかけ』が入ってなくて、万理華がずっと『私、「きっかけ」歌いたいのにな…』ってずっと言ってるのを横で聞いてて……最後の最後で曲が変わって、『きっかけ』をみんなで歌うことができたんですよ」

 前出のランキング発表で、井上小百合はかすかに声をつまらせるようにその思い出を語っている。曲が土壇場で変わった、というのは、出演者ではなくスタッフの間で話し合いがあり、ギリギリの判断で誰かが責任を負い、変更がなされたという意味である。それがいわゆる舞台監督なのか、他の誰かなのかはわからない。

 だが、アートを学び個展を開き、自分自身のもの作りにこだわる伊藤万理華は、自分に最後の最後で一番好きな曲を歌わせてくれた裏方のスタッフのこと、ものを作る人たちのことを忘れない俳優になるのではないかと思う。

 新しい曲が書かれ、新しい物語が始まる。伊藤万理華や中元日芽香が新しい道に踏み出す足音は、新しいメロディを世界に刻んでいくのだろう。かつて桜井和寿が「すっげえ良い曲だぞ。びっくりするぞ」と静かに微笑んで歌い始めた、「きっかけ」のあの美しいピアノのイントロのように。

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