遼太の首から血がほとばしった
「これ、つかえよ」
虎男は虚勢を張っていたこともあってカッターを受け取り、脅してやろうと刃を出して遼太の頬を、2、3回切りつけた。傷口から血がにじむ。虎男はさらにカッターを振りかざして腕と膝(ひざ)の上を1回ずつ切った。
遼太が傷口を押さえて痛そうに立ち上がる。虎男は、残酷にもこう命じた。
「おい、服に血がつくよ」
さらにカッターで切るという宣告だった。遼太は恐怖の余り逆らうことができず黙ってパーカーを脱ぎ、寒風が吹きつける中でタンクトップ1枚になった。震えるほどの寒さだったはずだ。
虎男はカッターを握り直し、そんな遼太の首を3回ほど切りつけた。遼太は「うっ」と叫んで、痛そうに顔をゆがめる。
虎男は遼太のタンクトップが血で赤く染まっているのを見て初めて、自分のしていることの重大さに気づいた。初めは痛めつけることが目的だった。だが、これだけの傷を負わせれば、警察に捕まるのは明らかだ。それに吉岡兄弟にだって半殺しにされる。
――もう殺すしかない。
そんな考えが脳裏をよぎったものの、そこまでできる自信がなかった。虎男は弱腰になり、星哉に向かってカッターを差し出した。
「なあ、やってくれよ」
星哉は切れ長の細い目を向けて言った。
「もうちょっと自分でやれ」
虎男は見下されたように感じたのか、カッターを握りしめ、遼太の首を切りつけた。遼太の首から血がほとばしったが、致命傷には至らない。
もう限界だとばかりに虎男は言った。
「やったぞ。替わって」
この時、虎男の本音は星哉に止めてもらいたかった。後の公判で、次のように語っている。
「殺そうと思ったけど実際はうまくできなかったです。途中で怖くなりました。カッターで刺す時に力はあまり入りませんでした。自分では首を切って殺すなんてできないと思い、星哉に『替わって』って頼みました。自分の代わりに切ってほしいというのと、止めてほしいという気持ちが半々くらいでした」