川に浮かぶ遼太の頭が時折見えなくなる
3人は護岸斜面から、暗い川の中を泳いでいる遼太を眺めていた。虎男が言った。
「なんか面白くね」
川辺に軽口が響く。剛が言う。
「あのままじゃ、おぼれるぞ」
川に浮かぶ遼太の頭が時折見えなくなる。
「反対岸まで行っちゃうよ」
剛が叫んだ。
「おーい、カミソン、もどってこい」
暗い川に声が響く。虎男も対岸へ逃げられたら困ると思って呼びかけた。
「もどってこい!」
波の影がゆっくりと近づいてきて、遼太が全身から水を滴(したた)らせて這い上がってきた。おそらくすでに低体温症に近い状態に陥っていたはずだ。
虎男は剛にカッターを差し出し、言い放った。
「おまえもやれよ」
切れ、と言われているのだとわかって当惑した。
「で、できないよ」
「やれっつってんだろ!」
「無理だよ!」
「ふざけんな、やれ」
何度か押し問答をしていると、虎男が激昂して剛をその場に押し倒した。馬乗りになり、血に染まったカッターの刃先を首につきつけて叫ぶ。
「やれって言ってんだろ。やらなきゃ、おまえも切るぞ!」
剛は、カッターを握る虎男の腕をすんでのところで押さえた。
そんな2人の間に、星哉が割って入った。
「やめとけよ」
仲間割れしている場合ではないと忠告したのだ。
虎男はカッターを持つ手を下げて離れると、立ち上がった剛に言った。
「時間見せて」
剛が自分の携帯電話を差し出す。すると、虎男はそれを奪い取り、自分のポケットに突っ込んだ。そしてもう一度カッターを突き出した。
「ほら、やれよ」
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