――バイタリティの塊ですね。
山本 あとはまだ日程が出てない時点から「自分のクラスのレースがありますか?」とか聞いておく。こうした質問を通じて「出たいと思ってるんだけど、レースを作ってくれたら嬉しいな」「そこに招待してもらえたら嬉しいな」と積極的に意思表示するんです。
――出場意欲を出していくと一層情報も入るようになる好循環なのですね。
山本 ええ。英国は健常者部門と障害者部門が同時に開催される陸上の試合が多く、賞金も出るなど条件がすごく良かったので何度か投げかけたりしました。
家のお菓子にも「1個〇〇円」と値段設定が…独特な幼少期
――「選手自身がそんなに密に交渉するのか」と驚いた読者もおられるでしょうが、お金へのこだわりは伝記(『義足のアスリート 山本篤』)からも随所に感じられます。金銭感覚やハングリー精神を培ったであろう家庭での原体験も登場しますね。
山本 「自分のものは自分で買いなさい」という、お金の管理に厳しい家庭環境で育ちました。お母さんがケチだったんだと思います。
例えば、家のお菓子にも「1個○○円」という値段が設定されていたんです。それを食べたければ、お菓子屋さんで買うのと同様に、自分のお小遣いからお金を払わねばなりませんでした。
――なんと家の中に売店が! いわば市場経済が家庭内にあったんですね。
山本 ええ、スモールな形でありました。家のお菓子を普通に食べられないのは独特ですよね。
そうこうするうちに小遣いだけでは足りなくなり、親の内職を手伝う代わりにお金をもらえないか交渉しました。
――そこに飽き足らず、作業ごとに単価が違うと気付き、より工賃の高い作業で効率良く稼ぐ方法を考えていくのですね。
山本 ええ。作業の大変さに応じて報酬額なども取り決めました。僕は簡単な作業で低賃金をもらうよりも難しい作業で高賃金をもらうほうが嬉しかったので、結構危険な機械を使う作業もやりました。親に「こういう風にしたら手がなくなっちゃうからね。指を飛ばさないように気を付けてね」とか言われながらね。