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「社会面は嫌だ。スポーツ面に載せてよ」「一競技に金メダルが13個も…それでいいのか」パラ金メダル候補がパラスポーツに抱く“複雑なキモチ”

山本篤選手インタビュー#2

2021/07/23
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 徒競走だと400m辺りまではスタートが重要なため、パワーを発揮する能力のない義足は不利です。ただし、スピードに乗れば持ち味を発揮し始めるので、長距離では有利なはず。また、下腿切断の人はふくらはぎが義足ですから、筋肉が疲れずエネルギー消費量が少ない。

 両足義足の800m選手が出てきたらすごい記録を残すかもしれませんよ。

障害者が「パラ目指すんですか?」と聞かれる歪さ

――他方でパラリンピックには、エリート化に対する障害者からの批判も根強くあります。社会的統合に資するインクルーシブスポーツの原点に帰れ、という立場です。

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山本 競技スポーツである以上、エリート化されていくのは仕方無いと思います。そのせいで障害者がパラスポーツをしなくなるわけではないでしょう。むしろ、多くの人がパラスポーツのことを知り楽しむきっかけを作っていける。

 ただ気がかりなのは、今の日本では、障害を負ってスポーツを始める、となった時に「パラリンピックを目指すんですか?」という風に言われる場合が多いらしいんです。

――私も障害者なのですごく経験あります。なぜなんでしょう?

山本 パラリンピック出場までの競技歴が短い選手が多いのも理由の一つかもしれませんね。彼らは、元々運動神経が良かったり、障害を負う前から同じ競技をやっていたりする場合が多いんですが、「始めて数ヶ月でパラ出場!」という点ばかりフィーチャーされてしまう。

 

 あとは、パラの選手以外で、趣味でパラスポーツをやっている人がたくさんいることを、知らない人も多いのかもしれない。

――膨大に居るはずの競技人口が不可視化されている?

山本 そうなんだと思います。東京招致による認知度の向上は良い事ですが、それが故に、知る入り口が全てパラリンピックになってしまっているのでしょう。

©山本篤

「パラリンピック出たら?」というのはパラスポーツを始める障害者にすれば大きな重圧になりますよね。

 ただそうした誤解は、多くの人がパラスポーツを楽しむようになれば解消されるでしょう。東京後はパラリンピックの普及から、パラスポーツの間口を広げる方に、大きく舵を切らないといけないと思います。

義足の子達に「自分も何か頑張ろう」と思ってもらえれば

――さて、最後になりましたが、東京パラへの意気込みをお願いします。

山本 義足の子達に「自分も何か頑張ろう」と思ってもらえれば嬉しいですね。僕は8月28日(土)の夜の部に出ます。しっかり準備して最高のパフォーマンスを出すので、多くの方に見ていただければ幸いです。

――東京後の展望もお願いします。

山本 まだ自己ベストを更新できるイメージがある。どこまで進化できるのか知りたい。だから、やれる限りやるつもりです。

「社会面は嫌だ。スポーツ面に載せてよ」「一競技に金メダルが13個も…それでいいのか」パラ金メダル候補がパラスポーツに抱く“複雑なキモチ”

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