1980年代後半から90年代前半に起きたスキーブームの際、早朝の駐車場待ちとリフト待ちを回避するための手段として広まったとされる日本の「車中泊」が、現在新たなブームを迎えている。現代の車中泊にはいったいどんな魅力が隠されているのだろうか。
車中泊雑誌『カーネル』の編集長大橋保之氏が車中泊のノウハウを詰め込んだ著書『やってみよう!車中泊』(中公新書ラクレ)より一部を抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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車中泊って苦痛じゃないのか?
そもそもクルマとは何か? と考えると、それは「人が移動するためのもの」、もしくは「物を運搬するためのもの」というのが通常の答えだろう。
1769年にクルマが誕生してから約250年。当初は馬4頭でひく馬車を超えるために、5馬力を目指したという話を読んだことがある。その後、すさまじい発展を遂げて現在に至るわけだが、そもそもは「寝る」ためのものではない。
もちろんクルマが発展してきたなかで、キャンピングカーのように「車内」で生活するために考えられた専用車両もある。しかしおおよその一般車の場合は、「快適」かつ「安全」に運転(同乗)できること、もしくは荷物がたくさん載せられることが、車種を選ぶポイント。スポーツカーなどは、そこに「運転して楽しい」という要素も入ってくる。最近では自動運転などの技術も発展しているが、本来はクルマは、その中で「寝る」ことを目的に作られてはいないのである。
「じゃあ、クルマで寝る車中泊って苦痛じゃないのか?」
いやいや。ここは声を大にして最初に言っておこう。クルマで寝る車中泊は楽しい! これはまちがいない。ただし、である。クルマに合った適正な「就寝」人数か? 正しい寝方をしているか? 車中泊場所は? 季節や環境に合ったアイテムを準備しているか? ある程度の事前知識と準備が必要なのだ。「注意点」というとマイナスイメージのように聞こえるかもしれないが、快適に寝るための「条件」はある。その条件を踏まえておけば、楽しい車中泊ライフを楽しむことができる!
私は「車中泊専門誌」の編集長という仕事上、新たに発売となったクルマや初めて目にする車種に出合うと、ついつい「このシートで快適に寝られるか」とか「シートを前に倒せばラゲッジのほうが寝やすいな」とか、反射的に考えてしまうほどの職業病に侵されている。座り心地よりも、寝心地のほうが気になってしまう。カバンにはいつも巻き尺を忍ばせており、そのクルマに興味が湧くと、人目をはばからず測定した目盛りの数字に一喜一憂してしまう。