六世帯に一世帯は貧困ライン以下のアメリカでは「ワーキャンパー」と呼ばれる高齢の車上生活者が増えている。高騰する住宅費に収入が追いつかず、キャンピングカーで全米を転々としながら働き続ける人々だ。
アマゾンなど、彼らを安価な不定期の労働力として当てにする企業も多い。
しかし、ワーキャンパーたちの自己認識は必ずしも「落伍者」ではない。狂気の世界から積極的に「降りた」覚醒者と自称する者もいる。「ノマド」は、たしかに日本でも縛られない自由さと親和性が高い。
それは現実に背を向けた強がりなのか――自らもワーキャンパーとなりながら取材を続けた著者が、それを問い続けたのが本書だ。
著者がこのテーマを取り上げるに至った動機は、「ノマド」を取り上げた記事の大半が「楽しく明るいライフスタイルか、変わった趣味ででもあるかのように」報じていたことへの違和感からだった。
しかし著者は同時に「逆境に直面した人間が発揮する驚くべき能力――適応し、意味づけ、団結する能力――」にも注目する。それはワーキャンパーが集う年に一度のフェスを記述する著者の筆致にもよく表れている。著者は彼らの「尊厳」に触れたのだ。
これらすべてに、私は強い既視感を抱く。一九九〇年代、日本の路上に目立ち始めたホームレスの人々は、フリーター同様「変わった趣味ででもあるかのように」語られた。それはバブル崩壊後の日本社会が貧困問題のとば口に立ったまぎれもない証だったが、そのように受け止める人は少なかった。同時に、凍死や孤独死がきわめて身近にありながら、路上は明るかった。そこには人々のつながりがあり、たすけあいがあった。そして彼らは、アメリカのワーキャンパー同様、自らを「ホームレス」とは言いたがらなかった。
生活苦と尊厳の複雑で微妙な関係を味わいたい大人に読んでもらいたい一冊だ。
ジェシカ・ブルーダー/ジャーナリスト。「ニューヨーク・タイムズ」ほか各紙誌に寄稿。2008年からはコロンビア大学でも教える。本書でディスカバー・アワードの2017年ノンフィクション部門最優秀賞受賞。
ゆあさまこと/1969年生まれ。社会活動家・法政大学教授。著書は『反貧困』など多数。近年はこども食堂の普及活動に従事している。