先輩はめちゃくちゃ恥ずかしかったそうです。新居までの移動時間が1時間あまり。その間、作業着姿のおじさん2人がラブドールと並んで座り、ほかのドライバーからジロジロ見られ続けたわけですから。そういう意味では、この男性は本当に迷惑な客でした。
なぜ引っ越し業界は「ヤバい客」を呼び寄せるのか
しかし、こうした客よりもヤバいのは、むしろ引越し業界がクレーマーの格好の標的となっていることかもしれない。前出の松本さんは「コロナ前からクレームが多かったんですが、最近は異常なくらいの数のクレームが来るようになりました」と話す。
──どういう内容のクレームが多いんですか。
松本 言いがかりとかイチャモンレベルのものばかりです。そういう類のクレームがものすごい勢いで増えている。作業後に帰宅すると「クレームが来ました。どんな現場だったんですか」と会社から電話が来て呼び出され、そのまま会議が始まるんです。
会議では「玄関のフレームの大理石が割れているらしいが、どうやって荷物を入れたのか」などと聞かれるんですが、我々もプロなのでそういう破損の危険性のある場所は絶対に踏まない。おかしな客が言いがかりをつけて「賠償しろ」と要求しているだけなんですよ。
──なぜ引越し業界はクレーマーを呼び寄せてしまうんですか。
松本 引越し業者はCS(顧客満足度)ランキングの上位になることでリピート客を獲得する戦略をとることが多く、会社側もクレームに対して非常に敏感になっている。平身低頭に対応してくれるから、ますますおかしな客がクレームをつけてくるという構図です。
靴下に穴が空いている作業員がいたら、それに対してCSアンケートを通じてクレームが来て、バイトにも新品の靴下着用が義務づけられるようになったくらい。とにかく客からのクレームの質がどんどん低下しているのが引越し業界の現状です。
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今回紹介した話はけっして笑い話ではない。カスタマーハラスメント、事業者への無茶な要求、行き過ぎたクレーム、これらは誰でも無意識にやってしまいがちなことだ。迷惑な客の行為を見て感じることがあれば、改めるべきところは改めたほうがいいだろう。