昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

25年ぶりにやって来た“お祭り”…この陰鬱な2021年を、我々オリックスファンは楽しむ権利と義務がある

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/08/17

 人間とは不思議な生き物だ、と思う。昨年2月、突如として、我が国にて新型コロナウイルスが拡散をはじめた時、我々は大きな困惑の中にいた。今から思えば僅かな数でしかなかった感染者の前に我々は怯え、緊急事態が宣言される中、人々は街に出るのを避け、用心深く家に閉じこもる事を選択した。

 しかし、それから既に1年半。新型コロナウイルスの感染は更に大きく拡大し、僅か1日の間に1万人を超える感染者が出る日々が続いている。しかしながら、現在の我々が住む社会には、昨年の春の様な大きな緊張感は存在しない。ビッグデータが示す様に、東京や大阪等の大都市の繁華街における人々の「自粛」に向けた動きは、緊急事態宣言を繰り返す度に、小さなものとなっている。

 勿論、これは野球コラムであり、その執筆者も医学の素人であるから、ここでこの様な人々の行動の是非を議論するつもりはない。しかし、ここからわかるのは、我々はこの様な極端な状態にさえ、何時しか「慣れて」しまっている事である。昨年春、緊張してマスクを着け、用心深く街へ出た我々は今や、あたかも服を着て、靴を履くのと同じように、当たり前の様にマスクを着け、そして街に出る。そう、好むと好まざるに拘わらず、新型コロナウイルス禍の状況は、いつしか我々の日常になってしまっているのである。

 そして季節は8月。テレビや新聞では、今年も第二次世界大戦当時を振り返る特集が続いている。ふと思う。きっと戦争の最中でも人々はこうして、悲惨な状況に何時しか「慣れて」しまっていたのかだろう。だとすれば、人間はなんて悲しい生き物なんだろう、と。

あの頃の謙虚すぎるくらい謙虚やった俺たち、一体どこへ行ったんや

 さて、そんな新型コロナウイルス禍が続く陰鬱な状況の中、日本全国の人々に数少ない、そして大きな希望を与えているのは、言うまでもなく、オリックス・バファローズの躍進である。オリンピックでも、山本由伸が初戦に先発するなどエース格の働きを見せ、吉田正尚は不動の三番打者の地位を占めて打線を支える事となった。つまり、金メダルも事実上オリックスが取ったようなものだと言っても過言ではない(異論は認めない)。ディクソン選手も銀メダルおめでとうございます。これからも頑張ってください。太平洋のこちら側から応援しています。

 しかしながら、この様な状況が続くと、厄介な事が起こる。そう我々はこのオリックスがパ・リーグの首位を走り、オリンピック・ブレーク明けの3連戦をも順調に2勝1敗で勝ち越して進む状況に、簡単に「慣れて」しまいつつあるのである。そうか、宮城君は10勝目、杉本、今日もホームラン打ったんや。まあ、彼らの実力を考えれば当然やな。むしろ、3連勝でけへんかったのが不思議なくらいや。2位の楽天まで1.5ゲーム。もっと差を開けなあかんやん。ネット上には、そんな新たな日常に「慣れて」しまったオリックスファンの声が溢れている。

 しかし、ここで立ち止まって考えよう。宮城はまだ高卒2年目、杉本もシーズンをフルで戦うのは事実上、今年がはじめてみたいなものである。そもそも今年の春、シーズンが開始された時、我々の目標はどこかもっと違う所にあった筈である。そもそもオリックスの勝率が5割に到達したのが6月10日、1か月近いオリンピック・ブレークを挟んでそれから僅か2か月余りしか経っていない。おい、あの頃の謙虚すぎるくらい謙虚やった俺たち、一体どこへ行ったんや。

 そしてシーズンはここからが本当の正念場。暑い夏を終えて、選手たちの疲労も蓄積していく時期である。調子を落とす選手も出れば、不幸な事に故障する選手も出るかもしれない。長らく優勝から遠ざかっているオリックスであるが、優勝争いらしい優勝争いをするのも2014年以来のことである。当時の主力メンバーで今も残っているのは、打者は安達とT-岡田、投手は平野と比嘉くらい。言い換えるなら、宮城や杉本は勿論、侍ジャパンを率いる山本由伸や吉田正尚だって、実は優勝争いなんかしたことはないのである。