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浅尾2軍投手コーチの言葉と、追いかける柳裕也の背中

 順調に成長のステップを踏んでいると言ってもいいのだが、清水はそれを否定する。

「1軍に上がって1回勝てばいいってのはもう違う。大野(雄大)さんや柳(裕也)さんのように、常に結果が求められる中で勝ってこそ、ですよ」

 今年2月に見た清水のボールを見て、誰もが活躍を予感した。当然、僕もだ。目に見えない焦りは、本人が一番よく分かっている。「早く1軍に上がって、結果を」。だが焦りとは裏腹に、強靱な先発陣がローテを守る1軍へは簡単に上がれない。

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 そんな中、視界が開けたのは浅尾拓也2軍投手コーチとの会話だった。焦る気持ちを正直に伝えた。すると同コーチは、苦しみの末にチームの顔となったあの左腕を例えに出した。

「達也、(大野)雄大はいつから勝ちだした? いつからローテーションをしっかり守るようになった? まだ達也は21歳でしょ。目先のことばかりじゃなく、先を見据えてやることがあるんじゃない?」

 浅尾は現役時代、リーグ2連覇の11年に79試合に登板。防御率0.41と異次元の数値をたたき出しリーグMVPに選出された。しかし、輝かしい成績の一方でキャリア晩年は度重なるけがに苦しんだ。清水は、浅尾が引退した2018年を2軍で共に過ごしている。

「印象に残っているのは、とにかくスパイクを履き替えるのが早かった。すぐに履き替えて、次のメニューに一番乗りしてるんです。ダッシュやランメニューでも一番真剣にやって、後輩たちに『頑張ろうぜ』って言って、示してくれた」

 栄光も苦しみも知る浅尾だからこそ、若手投手が感じるジレンマを理解できるのだろう。

 もう一人、清水にとって背中を追う先輩がいる。19年1月に自主トレを共にした柳裕也投手だ。チームトップ8勝にリーグ独走の奪三振数。2度目の球宴に選ばれた右腕を「取り組み方が、本当にすごい」と尊敬している。柳の登板は全て見て、その都度、LINEで連絡する。「少しでも柳さんに近づきたい」という一心から。「去年も柳さんとちょうど入れ違いで1軍にいた。いつか一緒にローテを守るのが目標」。“吉見塾”から出身の2人が竜の看板となれば、さぞ、塾長も喜ばしいことだろう。

 清水の好きな言葉は「感謝」。今年の母の日(父の日も兼ねて)にはネットショップで買った、取り付け式の「マッサージチェア」を贈った。なんだか、最近の贈り物は健康グッズが多くなってきたが、「両親には健康で長生きしてほしいから」と、たっちゃんなりの気遣いが愛らしい。残りは40試合となった、21年シーズン。右肩の痛みも、不安ももうない。あとは、自信を持ってマウンドに上がるだけ。4年前の自分に「成長しただろ」と、言わんばかりの剛球を早く見たい。

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